交通事故で傷害等を負い、その損害賠償が争いになって訴訟になった場合、判決では、通常、被害者が弁護士を使わざるをえなくなり、認定された損害額の約1割を弁護士費用相当額の損害被ったとして、交通事故による損害に加算されることになっています。しかし、弁護士費用特約が、被害者自身の特約にある場合は、300万円までは弁護士費用が補償されますから、このような場合にも、訴訟で、弁護士費用相当額の1割が交通事故の損害と認められるのかが問題となります。
1 名古屋地裁平成22年2月19日判決(交民 43巻1号217頁)
名古屋地裁平成22年2月19日判決は、弁護士費用については、交通事故の被害者が保険会社との間で弁護士費用等補償特約付きの保険契約に加入していたとしても、このことにより加害者が弁護士費用の損害賠償義務を免れるものではないとして、交通事故の損害として弁護士費用特約がない場合と同様の扱いをしました。
具体的には、「原告X1が未だに賠償を受けていないのは、上記(オ)の20万円である。また、原告X1は、本件事故により、弁護士による訴訟提起を余儀なくされたが、弁護士費用分の損害としては、2万円が相当である。したがって、本件事故による原告X1の被告に対する損害賠償請求権の残額(元本)は22万円である。原告X1は、本件保険契約で弁護士費用等補償特約に加入しているが、このことにより被告が弁護士費用の賠償義務を免れるものではない。」としました。
上記名古屋地裁判決では、何故、弁護士費用特約があるにもかかわらず(しかも、上限の300万円を超えない)、弁護士費用の1割が損害と認められるのかは述べてはいません。
しかし、交通事故の被害者は、弁護士費用特約の保険料を日常で支払っていたからこそ弁護士費用を保険で賄うことができたのであり、その事情を交通事故を起こした加害者の利益にするのはおかしいですから、上記名古屋地裁の判断は結論として相当だと言えると思われます。(弁護士中村友彦)