健康保険の利用
1.健康保険を交通事故の場合使えるのか
当然のごとく使えます。交通事故の場合も労働災害等に該当しない限りは健康保険の対象になります(労災等の対象になる場合は、労災等の扱いが優先され、健康保険は適用されません)。病院から自由診療をすすめられても絶対に断ってください。健康保険を使用しないと自分にも過失がある場合に損をすることになります。
2.病院に拒否されないか
病院は拒否できません。健康保険取り扱いの指定を受けている医療機関である限りは、保険証を提示されれば利用を拒めません。昭和43年10月12日旧厚生省保険局保健課国民保険課課長通知でも、「自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変りがなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるように指導されたい」と明記されています。
また、大阪地裁昭和60年6月28日判決(交民集第18号3巻927頁・判例タイムズ565号170頁)では、交通事故で傷害を負った被害者が健康保険療養保険給付が受けられるかについて、国保法61条の規定は社会的に非難されるべき事由のみに適用されるものであり、通常の交通事故では療養保険給付を受けることができると認めています。
3.健康保険利用の手続き
医療機関に対し健康保険の利用を申し出たうえ、市町村の国民健康保険課・国民健康保険組合・企業健康保険組合や全国健康保険協会などの保険者に「第三者行為による傷病届」を提出する必要があります。用紙は、各保険者窓口で用意されています。事故後すぐに提出できなくても,電話で保険者に届け出ておいて,後日正式な書類を提出すれば大丈夫です。
4.健康保険利用のメリット
(1)治療費を抑えることができること
健康保険を利用すれば,診療報酬は低く抑えることができ,診療費の7割は健康保険が負担してくれますから,自賠責保険の120万円上限額を有効に利用することができます。自由診療だと診療費が高額化した結果、自賠責の範囲を超え、自分で負担しなければならない事態になりかねません。
(2)過失相殺で有利であること
例えば具体例を挙げますと、保険診療だと100万円、自由診療だと200万円、その他の損害100万円、過失相殺4割、治療費全額を保険会社が既払いのケースだと以下のようになります。
保険診療 | 自由診療 | |
---|---|---|
治療費 | 自己負担分30万円 (健康保険だと3割負担なので) |
200万円 |
損害額 | 30万円+100万円で130万円 | 200万円+100万円で300万円 |
過失相殺 | 4割分は52万円 | 4割分は120万円 |
既払い金 | 30万円 | 200万円 |
賠償額 | 130万円-52万円-30万円で 48万円 |
300万円-120万円-200万円で -20万円 |
以上のように、保険診療の場合は48万円もらえますが、自由診療の場合は何もらえません。健康保険を利用した方がよいのは明らかです。