慰謝料増額事由
赤い本などに慰謝料は一定の基準が定められています。例えば、後遺障害等級14級であれば、後遺障害慰謝料が110万円などです。
しかし、このような基準は、そもそも事実上あたかも決まりごとのように使われているにすぎず、法的な拘束力があるわけではありません。
交通事故の態様、交通事故の後の加害者の態度、生じた結果の重大さなど、交通事故それぞれで様々な事情があります。したがって、必ずしも、慰謝料の額というのは赤い本などの基準にしばられるものではなく、ケースによっては増額されることもあります。
1.慰謝料増額事由
例えば、以下のようなものが考えられます。
加害者が無免許運転、ひき逃げをした、酒酔い運転だった、著しいスピード違反があった、赤信号をあえて無視した等々、加害者に事故に対して故意や重過失がある場合
後遺障害が認められても労働能力喪失が否定されて逸失利益が認められない場合
後遺障害が認められても、逸失利益が減額される場合に慰謝料の補完機能により慰謝料の増額が考慮される場合
将来の手術費の算定に困難が伴う場合
加害者が謝罪しない、証拠隠滅を図った場合
これ以外にも慰謝料を増額させる事情は様々なものがありえ、これを慰謝料の算定に含めるために、専門家である弁護士に頼むことが有用です。
2.慰謝料を通常より増額させた裁判例
(1)大阪地裁平成19年7月26日判決
(事故態様、事故後の行動の悪質さ等が考慮された)
被害者に後遺障害14級が認定された事案で、加害者が飲酒運転で、事故現場から逃走し、事故隠蔽のために車両損傷箇所を塗色した等の事情を考慮し、入通院慰謝料261万円(入院合計119日、症状固定まで496日)、後遺症慰謝料310万円を認めました。
(2)東京地裁平成6年9月20日判決
(後遺症逸失利益を否定した事案・将来の治療可能性を考慮)
後遺障害14級2号の歯牙障害が残存している他、顎関節症状(後遺障害非該当)も認められるが、これらはいずれも労働能力の制限を伴うほどのものとはいえないとして、後遺症逸失利益を否定し、将来再治療の必要性が生じる可能性がある点を後遺症慰謝料において考慮するのが相当として、170万円の後遺症慰謝料を認めました。
(3)大阪地裁平成13年9月21日判決
(被害者が妊婦で胎児が死産した事例)
被害者が、右足関節捻挫、頚部挫傷の傷害を負ったほか、胎児を死産した(妊娠18週)ことに関し、入通院慰謝料として100万円、胎児死亡についての慰謝料とした350万円を認めました。
胎児はまだ人ではなく、権利主体ではありませんので、胎児の死亡慰謝料自体を認めることはできませんが、胎児の死産を妊婦である被害者の慰謝料の増額事由としています。