損益相殺
損益相殺とは、交通事故の被害者が、事故により損害を受けながら、一方では利益を受けた場合(労災保険など)に、受けた利益を損害額から控除して賠償額を支払われるというものです。
事故により自賠責保険から支払いを受け、かつ加害者に損害賠償を請求して損害額の全部を賠償してもらった場合、賠償額の二重取りになってしまい、被害者が必要以上に利益を得ることになってしまいます。そのような不公平な事態を避けるために、損害賠償額から控除することになっています。
1.損益相殺の対象になるもの
- 労災・健康保険・年金など各種社会保険給付
- 受領済の自賠責損害賠償額
- 政府の自動車損害保障事業填補金
- 国民健康保険による高額療養費還付金
- 所得補償保険契約による保険金
- その他にも様々なものがあります。
2.損益相殺の対象にならないもの
- 通常の香典・見舞金
- 搭乗者傷害保険
- 生命保険金・傷害保険金
- 生活保護法の公的扶助
- 雇用保険による給付金
- 労災法上の特別支給
- 自損事故保険金
3.損益相殺ができる場合
最高裁平成5年3月24日判決
「被害者が不法行為によって損害を被ると同時に、同一の原因によって利益を受ける場合には、損害を利益との間に同質性がある限り、公平の見地から、その利益の額を被害者が加害者に対して賠償を求める損害額から控除することによって損益相殺的な調整を図る必要がある」
損益相殺として控除できるのは、利害と損失が「同一の原因」によって生じ、利益と損害との間に「同質性」が存在する場合としています。
4.過失相殺との先後
過失相殺前に控除されるのか、過失相殺後に控除されるかは、被害者の受けた利益・給付によって異なります。
(1)健康保険
現在の実務では、過失相殺前の損害額から控除されています。下級審の裁判例も過失相殺前の損害から控除する傾向にありますが、最高裁はこの点についてはっきりしていません。
(2)労災保険
過失相殺後に損害額から控除するというのが最高裁の立場です。最高裁平成元年4月11日判決は、労働者がいわゆる第三者行為災害により被害を受け、第三者がその損害につき賠償責任を負う場合において、賠償額の算定に当たり労働者の過失を斟酌すべきときは、右損害の額から過失割合による減額をし、その残額から労働者災害補償保険法に基づく保険給付の価額を控除するのが相当である旨を述べました。
5.損害費目充当の拘束性
保険給付全額を単純に損害額から引くのではなく、損害の種類ごとに分けて控除します。