過失相殺
交通事故が生じた場合、被害者にも落ち度があることもあります。そのため、すべての事故の責任を加害者が負うとしたのでは、当事者間で不公平になることがあります。そこで、民法722条2項は、被害者の過失を考慮して、加害者の損害賠償責任を裁判所が決めることができる旨を定めています。これが過失相殺という制度です。過失相殺がなされる場合、損害額から被害者の過失に応じた額を差し引くことになります。
1.自賠責保険における過失相殺
自賠責保険では、通常のような過失相殺をしません。重過失についてだけ一定割合を減額する運用がされています。ですので、被害者に多少の落ち度があっても過失相殺されません。詳しくは重過失減額のページへ。
2.過失相殺率の認定基準
過失相殺については、過失相殺を行うか否かとその割合について、基本的に裁判官の裁量に委ねられています。
しかし、交通事故損害賠償の事件は多く、判断のばらつきなどからくる不公平を避けることや、事件数の増加に伴う早期解決の要請等といった理由から、基準化が試みられ、東京地裁民事交通訴訟研究会編「民事交通事故訴訟における過失相殺率の認定基準」全訂4版(別冊判例タイムズ16号)が、実務上定着し使われています。
ただ、この基準は一つの目安にすぎず、裁判所の裁量を排除するものではありませんから、個別の事情によっては、別の過失割合になることもありえます。
3.過失の斟酌事由
被害者の過失として考慮されるのは、以下のようなものです。
(1)交通法規違反
乗用車同士の事故では、交通法規が社会に相当程度浸透していると考えられるためか、道交法上の優先関係が基本的に中心として考慮されます。ただ、歩行者や自転車の場合は、交通法規がそれほど浸透していないせいか、具体的な危険発生の場面における双方の注意の程度、回避可能性等も重要な要素とされます。
(2)優位者の危険負担
性能が優れたりや車体が大きい乗用車などは、特に注意すべきという考え方です。歩行者対自動車だと、自動車対自動車の場合より、自動車に不利な過失の認定がされます。
(3)弱者保護
事故などの危険を回避し、安全を確保する能力に劣る幼児や高齢者等は、社会的に保護すべき要請が高いとして、これらの者の過失は軽減される運用がされています。
4.過失相殺への考慮から、健康保険の使用要請
健康保険を使用せずに、自由診療で治療費を支払った場合、過失相殺で損をすることがあります。詳しくは健康保険の利用のページへ。