物損に関する慰謝料
交通事故によって、傷害を負ったり、後遺障害が残った場合、基本的に加害者に対して慰謝料を請求することができます。しかし、交通事故にあったからといって、常に傷害等が発生し、人損事故になるとは限りません。乗っていた車両が壊れたり、車両の中にあった物が壊れたが、人損は発生していないような場合など、物損事故にとどまることも大いにありえます。このような場合に慰謝料を請求できるかといいますと、原則できません。但し、事情によっては、例外的に慰謝料が認められた例もあります。
1.なぜ物損事故で慰謝料が認められないか
物損事故の場合に慰謝料が発生しないとする規定はありません。しかし、物的損害であれば、その財産的損害の賠償を受ければ、同時に精神的な損害も回復すると考えられており、物的損害の財産的損害の填補以外に慰謝料を請求することは原則できません。
2.例外的に慰謝料が認められる場合とは
交通事故による物損が財産的損害にとどまらず、被害者の人格的利益などを侵害したといえるような場合には、慰謝料が例外的に請求できると考えられます。
例えば、交通事故により壊れたものが被害者にとって極めて大事なものであり、その損壊は通常被害者に多大な精神的な苦痛を与えうるといえる場合、加害者の行為が特に悪質で、被害者が普通よりも精神的苦痛が大きいといえるような場合です。
3.物損事故で、慰謝料請求が認められた裁判例
(1)神戸地裁平成13年6月22日判決
大型貨物自動車が運転者の前方不注視により家屋に衝突した交通事故につき、原告2人に対し、慰謝料各自30万円を認めました。
「上記認定のとおりの本件家屋の損壊の程度に加え、原告らは長年住み慣れた本件家屋を離れて、約半年間もアパート暮らしを余儀なくされたのであって、特に老齢の原告ひでのの心労や生活上の不便、不自由さは相当なものであったと考えられること、原告一雄が借財をして本件修復工事をするなど本件事故の事後処理に奔走したこと、その他諸般の事情を考慮すれば、原告○○及び原告□□が受けた精神的苦痛に対する慰謝料は、各30万円が相当である。」
(2)京都地裁平成15年2月28日判決
加害者が飲酒運転をして交通事故を起こした事案について、慰謝料10万円を認めました。
「そのまま事故現場から逃走したこと、そのため、原告が事故現場付近を探索したところ、数百メートル離れた駐車場に損傷した被告運転の車両を発見し、本件事故の加害者が被告であることを突き止めたことが認められるところ、以上のような本件事故発生前後の被告の態度の悪質性及びこれにより原告が一定程度の心痛を受けたであろうと推認される」