交通事故の際、頭を強く打ち付けたりすることで脳や神経を損傷したり、顎の周辺を骨折等や舌自体が傷つくことで、味覚がなくなったりする場合があります。味覚の障害については、交通事故後に生じても、時間の経過とともに段々と治っていくこともありますが、ケースによっては、後遺障害として残存してしまう可能性があります。
1 味覚
味覚は、舌にある味蕾という小さな感覚器官で感じます。甘い(甘味)・塩からい(塩味)・酸っぱい(酸味)・苦い(苦味)の4種類が基本とされますが、旨味をいれて5種類を基本とされることがあります。味覚障害は、交通事故のような外傷により生じることもありますが、内服薬の副作用で生じたり、ストレスや亜鉛不足で生じたりします。
2 味覚の後遺障害
交通事故により残存した障害について規定した自賠責後遺障害等級表には味覚の後遺障害についての記載はありません。しかし、後遺障害等級表に該当しなくても、各等級の後遺障害に相当するものは、相当等級として後遺障害が認定されます。味覚についても、以下のように相当等級が認定される可能性があります。
後遺障害12級相当 |
味覚がなくなった(味覚脱失) |
後遺障害14級相当 |
味覚が一部なくなった(味覚減退) |
3 味覚脱失(味覚消失)とは
ろ紙ディスク法における最高濃度液による検査により、甘い(甘味)・塩からい(塩味)・酸っぱい(酸味)・苦い(苦味)の4種類すべてを感じることができないとされる場合です。
4 味覚減退とは
ろ紙ディスク法における最高濃度液による検査により、甘い(甘味)・塩からい(塩味)・酸っぱい(酸味)・苦い(苦味)の4種類のうち、1種類以上を感じることができない場合です。
5 味覚の検査
(1)ろ紙ディスク法
味覚について、感じ方がどの程度であるかを調べる検査です。舌の所定の部位(それぞれの味を認識する部位に4つの味の溶液を浸した小さなろ紙を置き、どの味であるかを答えます。
(2)電気味覚検査
味覚を感じる神経について、左右の差を調べる検査です。舌に電流を流して刺激を与え、どれくらいの強さの刺激で味を感じるかを測定し、味覚障害の程度を調べます。ろ紙ディスク法のように味ごとの感じ方を調べることはできません。
6 労働能力喪失についての争い
(1)大阪地裁平成9年8月28日判決(交民30巻4号1215頁)
大阪地裁平成9年8月28日判決は、交通事故で、嗅覚脱失(12級相当)、味覚障害、顔面、頸部に外傷性瘢痕拘縮、頭痛、目眩、背部痛、手足のしびれ、右大後頭神経痛等が残存した事案です。上記大阪地裁判決は、交通事故により味覚が減退したものと認められるが、味覚の脱失には至らずその減退にとどまる場合には、当該障害を残した者の職業等に照らし味覚の一部を失うことがただちに労働能力に影響を及ぼすことが明らかであるような特段の事情が認められる場合は格別、そうでない限り一般には労働能力に影響を及ぼすことはないと考えられとし、味覚の減退があったことをもって自賠責後遺障害別等級表所定の後遺障害に相当するものということはできないとしました。
但し、味覚障害については、不自由があるとして慰謝料増額の斟酌要素としています。
(2)東京地裁平成6年12月27日判決(交民27巻6号1892頁)
東京地裁平成6年12月27日判決は、交通事故により受けた外貌醜状、味覚低下、複視、右感音難聴等の後遺障害が残存し、味覚については、塩味の感覚について問題が出て、薄味の微妙な加減ができなくなったという事案です。
上記東京地裁判決では、寿司職人としての労働能力に重大な影響を与えることが明らかであるとして、自賠責と同一の労働能力喪失率を認定しています。
(弁護士中村友彦)
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