交通事故にあった場合、怪我を負う場所は多岐にわたります。首や腰に負うむち打ち症が多いですが、事故の態様によっては、足や手などの骨折を伴うことがあります。そのような骨折として、交通事故でよくみられるものの一つに膝蓋骨の骨折があります。
1 膝蓋骨
膝の前面にある平らな円状の骨です。膝の皿ともいいます。近位に大腿四頭筋と接し、遠位に膝蓋靭帯が付いています。膝を曲げた状態から膝を伸ばす時に重要な働きをしていることから、膝蓋骨を骨折すると膝を伸ばすことが制限されます。
バイクや自転車の交通事故で膝からアスファルト上に落ちることで、膝を強く打ち付けるなどして骨折することがあります。
2 膝蓋骨骨折で重要なこと(早期に適切な治療)
交通事故で膝蓋骨をどのように骨折したか等によるので一概には言えませんが、治療による改善が比較的多い怪我です。交通事故で膝蓋骨を骨折した場合は、早期に病院で治療を受け、なるべく膝専門の病院に通院するようにしましょう。下記述べるように膝蓋骨骨折後に後遺障害が残存した場合には、損害賠償の金額は大きくなります。しかし、膝という人の移動のために重要な部位に後遺障害が残ると、その後の生活は極めて厳しいものになります。
膝蓋骨骨折だけに限られませんが、交通事故で受傷後、早期に適切な治療を受けないと後遺障害が残存し、将来後悔することになりかねません。重要なのは早期に適切な治療を受けることです。
3 膝蓋骨骨折後に残存することがある後遺障害
主なものに分けると可動域制限と神経症状があります。下記一覧の後遺障害慰謝料額や労働能力喪失率は、一般的なものです。膝蓋骨骨折の態様や治療経過など、事案によって変わります。
(1)可動域制限
等級 |
内容 |
後遺障害慰謝料額 |
自賠責労働能力喪失率 |
第8級7号 |
可動の用を廃した |
830万円 |
45パーセント |
第10級11号 |
可動域が2分の1以下に制限 |
530万円 |
27パーセント |
第12級7号 |
可動域が4分の3以下に制限 |
280万円 |
14パーセント |
(2)神経症状
等級 |
内容 |
後遺障害慰謝料額 |
自賠責労働能力喪失率 |
第12級13号 |
局部に頑固な神経症状 |
280万円 |
14パーセント |
第14級9号 |
局部に神経症状 |
110万円 |
5パーセント |
4 膝蓋骨骨折後の装具代
膝蓋骨を骨折後、治療中、膝にギプス等の装具を付けることが通常ですが、この時にかかる装具代も、交通事故による損害として、加害者に一般的に請求することができます。
5 膝蓋骨骨折に関する裁判例
(1)横浜地裁平成24年12月20日判決(交民45巻6号1548頁)
横浜地裁平成24年12月20日判決は、交通事故で膝蓋骨骨折を負い、後遺障害として自賠責後遺障害等級12級13号の認定を受けた事案です。加害者側は、神経症状として労働能力喪失期間は10年と主張しましたが、上記横浜地裁は就労可能年数である31年間を認めました。また、後遺障害慰謝料についても290万円を認めています。
(2)和歌山地裁田辺支部平成14年1月29日判決(交民37巻6号1531頁)
和歌山地裁田辺支部平成14年1月29日判決では、交通事故で膝蓋骨骨折を負い、神経症状として後遺障害12級の認定を受けたものです。症状固定時34歳の被害者の後遺障害逸失利益について、事故前年の収入を基礎に、就労可能年数を34年として計算しました。
(弁護士中村友彦)