交通事故は、車と車同士の事故、自転車と車の事故や歩行者と車の事故といった種類に限られません。乗り物に乗車中に、その車内の中で転倒して負傷をしたようなものも含まれます。例えば、バスの車内で、バスがいきなり急ブレーキをかける等した影響で転倒した場合も交通事故です。
1 バス車内における交通事故
バスの右左折、急停止、減速、加速や発進時に転倒事故が発生し、年度によってバラツキがあるとはいえ、平成18年度には約1200件もの事故が起こっています。事案によっては、重傷を負うケースもあり、一般的に高齢者が重傷になる場合が多いようです。
2 「急」の付く場合によく起きる
急減加速、急ハンドル、急発進など、急な運転の場合に車内転倒事故がよく起こります。急な運転の場合には、乗客に負荷がかかるためです。また、カーブや追越しでの急ハンドルは、遠心力が強くなり、乗客の転倒を招きます。
3 自賠責保険への請求
一般の交通事故と同様に自賠責保険へ請求できます。通常、バス会社が加入している自賠責保険に請求することになると思いますが、バス会社が無責である場合(いきなり他の車両から後方から追突されたようなケース)には、バス会社加入の自賠責保険へ請求することはできません。この場合、追突してきた車両が加入している自賠責保険に請求します。
なお、バスと追突していきた他の車両がいずれも過失があるような場合には、交通事故の被害者はバス会社及び他の車両加入の自賠責保険の両方に対して請求できます(一つの同じ損害に対し二重取りできるわけではありません)。
4 事故態様に争い
事故態様に争いがあるような場合、例えば急速度で発進しなかった等の主張をバス会社がしているような場合には、実況見分調書や鑑定を元に争うことになります。ただ、バス会社はバスの運行について記録を通常とっていますので、速度チャートを所持しており、それが事故態様の立証に重要な意味を持つことがあります。
5 過失相殺に関する裁判例
バスが急発進した転倒事故が生じた場合に、負傷した乗客の方も吊革にしっかりつかまる等すべきであったとして、過失相殺が問題となることがあります。当事務所が扱った案件でも、バス車内で転倒した交通事故の事案で、過失相殺が争われ、当方の過失が0を前提に和解が成立したことはあります(但し、特殊な事案でした)。
(1)大阪地裁平成22年6月21日判決(交民43巻3号782頁)
大阪地裁平成22年6月21日判決は、「一般的に、乗合バスの運転者は、発進時の乗客の着席確認や席移動時の注意の呼びかけ、停止してからの乗客の移動下車、発車時のドア扱い、乗降客の動静把握などに注意して乗合バスを運転すべき注意義務がある。」としたうえで、「一方、乗客も、乗合バスに乗車するにあたり、たとえば発進することが予想される状況においては、可能な限り速やかに手すりを持ち、または空席に着席するなどして、バスの発進による揺れ等から自らを守る努力をすることも必要である。」と述べました。
しかし、上記大阪地裁判決は、交通事故の被害者がバスの発進による揺れ等から自らを守る努力をする余裕を認めるに足りる的確な証拠はないとして、過失相殺を行いませんでした。
(2)大阪地裁平成8年11月18日判決(交民29巻6号1664頁)
大阪地裁平成8年11月18日判決は、バスの急停車により転倒して、頭部打撲、頸椎捻挫、腰椎打撲の傷害を負い、頭部痛等の後遺障害が残存したという交通事故の事案です。
上記大阪地裁判決は、「市営バスにおいて立っている乗客は、急停車などの衝撃により転倒するなどして受傷しないよう、車内の安全設備を利用するなどして自己の安全を図る義務を負う」としたうえで、他の乗客との比較や被害者の体力などの事情を考慮して、被害者が手摺りをしっかりと持ってさえいれば生じなかった可能性を否定できないことから、過失があると言わざるを得ないとして、交通事故の被害者の過失を3割としました。
(弁護士中村友彦)