交通事故が生じた場合、すぐに警察に連絡を入れるのが通常です(道路交通法72条でも通報しなければならないとされています)。連絡を受けた警察は、たいていの場合すぐに交通事故の現場に来て、当事者から事故態様等について事情を聴取します。事案によれば、実況見分までしてしまうこともあるでしょう。警察が交通事故について聴取したことは刑事記録として残りますので、後日、紛争になった場合に有力な証拠になります。
1 物損事故
道路交通法67条2項によれば、交通事故とは車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊をいいます。そして、物損事故は、そのうちの物の損壊に関する事故のことです。
2 物件事故報告書
物損事故では、普通の場合、人身事故のように実況見分調書のような刑事記録は開示されません。起訴されれば、詳細な刑事記録が出てくるかもしれませんが、器物損壊罪は故意犯ですので、通常の物損事故だと過失によるものが大半ですから(ワザと交通事故を行うのは特殊です)、起訴されることはまずありません。
物損事故の場合に開示されるのは、物件事故報告書というものです。実況見分調書と比較すれば、極めて簡易な内容ですが、事案によれば有力な証拠になることがあります。
3 物件事故報告書の取得
物件事故報告書の取得は、弁護士法23条の2に定める弁護士会照会制度によって行います。弁護士会を通じて、警察に対して物件事故報告書の照会をかけて入手します。弁護士が専門家として活動を行ううえで、証拠収集の手段として認められたものです。
4 簡易な内容だが事案によっては有用
物件事故報告書は、実況見分調書とは違い、かなり簡略して記載されています。ですから、事故態様の争いで、どの位置でブレーキをかけたか等の事故態様の細かい点が重要になる事案では、あまり証拠として役には立ちません。しかし、どちらが、衝突時に動いていたかなどが争点になっているようなケースでは意味があります。
当事務所が、扱った案件でも、当方の依頼者が対向車と擦れ違うために停止中に、対向車が当方の依頼者の車と接触させたという事案で、事故態様が争点になりましたが、物件事故報告書を取得してみると、物件事故報告書では当方の依頼者の車両が停止中に対し、対向車が走行していたという内容が記載されていたことがありました(結局、当方の依頼者の過失が0になりました)。
(弁護士中村友彦)