交通事故にあった場合、通常、加害者加入の任意保険会社が出てきて、病院等における治療費の支払いや、自賠責保険の後遺障害認定手続きを行うことが多いです。これを一括対応といったりします。しかし、事案によっては、過失割合の争いや交通事故の加害者が任意保険に未加入だったりした場合、加害者加入の任意保険会社がでてこないことがあります。
このような場合でも、自賠責保険に対し、保険金の請求をする方法として自賠法16条に定める被害者請求があります。
1 自賠法16条の被害者請求
自動車損害賠償保障法では、交通事故の加害者が加入している自賠責保険会社に対して、自賠責保険金を請求できる権利を16条で認めており、これを被害者請求といいます。自賠法16条に定められていることから、16条請求という言い方をしたりもします。
2 被害者請求を行う事案
被害者請求をすることをおススメするのは、後遺障害等級認定手続きを行う場合や、被害者に重大な落ち度が認められる場合などです。
(1)後遺障害等級認定手続きを行う場合
一括対応の場合、加害者加入の任意保険会社が事前認定という形でやってくれますが、どのような書類を出したかが分からず交通事故の被害者にとって手続きが不透明ですし、被害者請求の形で行えば先に自賠責保険金を一定程度確保できます。
(2)被害者に過失が大きい場合
自賠責保険が重過失減額という制度を採用している関係上、被害者に7割以上の過失がなければ、自賠責保険金は減額されませんので、被害者の過失が大きい場合には、被害者請求は利用価値が大きいです。(但し、加害者が無責であると自賠責保険が認定した場合を除きます。この場合無責事故として自賠責は支払いません)
(3)因果関係が不明な場合
自賠責保険は、交通事故と受傷・後遺障害・死亡の因果関係が不明の場合には、自賠責保険金額の50%を支払うことになってますので、裁判で因果関係がどうなるか分からない事案でも、とりあえず被害者請求をして一定程度の金額を確保できます。
3 当事務所が被害者請求を行う場合
当事務所は、交通事故の被害者の治療中から受任することがよくありますので、被害者請求も行っておりますが、被害者請求だけの受任はしていません(相談しだいでするかもしれませんが)。当事務所が受任した場合の活動費用は、費用のページを見ていただければいいですが、被害者請求に特別の費用をとったり、後遺障害について異議申立をすることになっても追加の費用は頂いていません。
自賠責保険の被害者請求は、交通事故の被害者本人が行うことができますが、交通事故の問題は、後遺障害や事故態様など多くのことに関わってきますので、自分で気づかないうちに何らかのミスをしてしまう前に、専門家である弁護士に相談すべきです。
4 被害者請求の時効に注意
被害者請求はいつまでもできるわけではありません。交通事故の損害賠償の問題に対していつまでも放置しておくと、 消滅時効にかかり請求できないことになりかねません。
消滅時効については、以下のとおりです。法改正があった関係で、交通事故があった時期によって時効期間が異なります。
交通事故日 |
傷害の損害 |
死亡の損害 |
後遺障害の損害 |
平成22年3月31日以前 |
事故日から2年 |
死亡日から2年 |
症状固定日から2年 |
平成22年4月1日以降 |
事故日から3年 |
死亡日から3年 |
症状固定日から3年 |
損害賠償の問題を放置することなくすすめるべきだとは思いますが、何らかの事情で手続きをすることができない場合には、時効中断の手続きをするべきです。具体的には時効期間経過前に、自賠責保険会社に対して、自賠責保険所定の時効中断申請書を提出して、承認書を取得します。そうすれば承認日に時効は中断され、再度時効期間が進行することになります。
相談に来られる方のなかには、長期間損害賠償の問題を放置してしまい、被害者請求で異議申し立てをしようにも消滅時効にかかってしまっているケースがあります。通常、加害者側の保険会社との間で交渉を続けているので、加害者への損害賠償請求自体の時効については問題ありませんが、自賠責に異議申し立てをしようにもできず、損害賠償請求のための一つの有用な手段が使えなくなっていることがあります。
5 16条請求権が消滅時効完成後に、被害者が自賠責保険から保険金を取得する手段
被害者請求(自賠法16条)に消滅時効が完成して行使できない被害者が、自賠責保険に対して請求できることがあります。
具体的には、交通事故の加害者に対する損害賠償請求権の債務名義を取得して、加害者の自賠責保険に対する自賠責保険金請求権に対して民事執行法159条に基づき差押転付命令を得るという手段です(最高裁昭和56年3月24日判決民集35巻2号271頁)。
加害者が任意保険に加入していないような場合で、かつ加害者の資産が不明というようなケース等に限られますし、自賠責の被害者請求を消滅時効にかけなければよい話ですので、滅多に使用する手段ではないと思います。
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(弁護士中村友彦)