足の股関節などに、交通事故で大怪我を負った場合に、その傷害の内容によっては人工関節をそう入置換したりすることがあります。人工関節や人工骨頭の置換手術自体は、変形関節症など年齢に伴う症状で使用することがありますが、交通事故にあわれた方の治療としても行われることがあります。足に人工関節・人工骨頭にそう入置換することになった場合、その損害として後遺障害慰謝料等が認められます。
1 人工関節・人工骨頭
損傷して傷んだ関節の部分を取りのぞいて、金属やポリエチレンなどの人工関節に置きかえるのが人工関節の置換手術です。それに対して人工骨頭の置換手術は、関節自体ではなく、損傷で傷んだ骨頭を人工の骨頭に置き換えるものです。痛みが取れたり、歩行が可能になるメリットがありますが、本来の人間の関節と異なって、人工関節・人工骨頭は摩耗しやすいなどのデメリットもあります。
2 足に人工関節・人工骨頭をそう入置換した場合の後遺障害等級
足に人工関節・人工骨頭をそう入置換することになった場合、自賠責保険では後遺障害等級が定められており、関節の可動域や他の足の関節の障害との関係で等級の程度がかわります。認定される可能性があるのは、下記の一覧のとおりです(併合を除く)。
等級 |
後遺障害 |
第1級6号 |
両下肢の用を全廃したもの |
第5級7号 |
1下肢の用を全廃したもの |
第6級7号 |
1下肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの |
第8級7号 |
1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの |
第10級11号 |
1下肢の3大関節の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
人工関節・人口骨頭をそう入置換して、関節の可動域が健側の2分の1以下に制限される場合が関節の用を廃したと評価され、2分の1を超える場合が関節の機能に著しい障害を残すものと評価されます。
なお、3大関節とは、足関節、膝関節と股関節のことです。
3 将来、人工関節・人工骨頭手術を行う場合
交通事故で、足に重傷を負い、治療を終えて症状固定をむかえたが、当該事故で負った傷害が関係して、将来(何年、何十年後)において人工関節手術等が必要になるケースがあります。そのような場合、将来の手術費用を請求できるのかが争いになります。
(1)大阪地裁平成18年1月19日判決(交民39巻1号26頁)
大阪地裁平成18年1月19日判決は、左大腿骨骨折、左膝蓋骨骨折、左脛骨関節内骨折等の傷害を交通事故で被害者が負った事案です。将来人工関節手術が必要になる可能性が高いとして、その将来の手術費について争われました。上記大阪地裁判決は、「原告の膝関節については、原告が50歳となるころに変形関節症の治療として、人工(膝)関節置換術を行う必要性を生じる蓋然性を認めることができる。
したがって、将来におけるその費用についても本件事故による損害として認めるのが相当であるが、人工膝関節の耐用年数は約20年と考えるのが相当であること及び原告の平均余命(約77歳)とを併せて考慮すると、人工関節置換術は原告が50歳となるころ及び70歳となるころに必要になるものとして、その費用を、症状固定時を基準として、ライプニッツ係数によって現在価値に評価するべきである。」と判示して、将来の手術費を認めました。
(2)大阪地裁平成14年8月22日判決(自保ジャーナル1477号19頁)
大阪地裁平成14年8月22日判決は、交通事故で左足下肢デグロービング損傷、膝窩動脈損傷、左下肢不全切断等の傷害を負った事案です。原告は、原告の左膝関節症が進行すれば、骨切り手術及び人工関節置換術の実施が必要となるとして、将来の手術費用に加え、同手術に伴う休業損害及び入通院慰謝料を請求していました。しかしながら、左下腿骨外側関節面の不整・変形や荷重軸の外側への偏位が存在するため、将来、変形性膝関節症が進行する可能性はかなり高いものであることが認められるとしつつも、骨切り手術及び人工関節置換術のいずれについても、その実施が不可避的なものであるかどうか、仮に実施することが避けられないとしてもその実施時期がいつころになるかについては必ずしも明らかであるとはいいがたいから、原告の主張する将来手術に伴う損害を正確に算定することは困難であるとして認めませんでした。但し、将来手術を行わなければならない可能性が相当程度存するものと認められることに鑑み、後遺障害慰謝料額の算定においてこの点を一定程度斟酌するのが相当であるとしています。
(弁護士中村友彦)