タクシー会社への損害賠償請求権の時効(タクシーに乗車中の事故)

   交通事故の損害賠償請求権は、通常の場合、民法724条に従い3年で消滅してしまいます。ですので、交通事故の被害者は、自らの権利が時効によって消滅しないように行動しなければいけません。もっとも、長い間、被害者が加害者の責任追及をしないということはあまりないですし、通常加害者加入の保険会社が交渉等の措置をとっていますので、普通時効にかかることはないでしょう。ただ、稀に仕事が忙しい等の理由で、保険会社が送付してきた示談書を放置した結果、民事不法行為の時効期間が過ぎてしまったということがあります。このような場合でも、タクシーに乗車中の交通事故であれば、タクシー会社への損害賠償請求権は消滅していない可能性があります。

1 タクシー会社の責任

(1)使用者責任

  タクシーの運転手の不注意で交通事故が生じた場合には、民法719条に定める使用者責任が成立しますので、タクシー会社は損害賠償責任を負うことになります。

(2)運行供用者責任

 自賠法3条は、自己のために自動車を運行の用に供する者を運行供用者として一定の場合に損害賠償責任を負わせています。タクシー会社も、タクシーの運転手を使用して利益を上げていますから、運行供用者として事故があれば責任を負うことになります。

(3)旅客運送契約不履行に基づく責任

 タクシー会社とタクシーの乗客との間には、タクシー会社が乗客を目的地まで安全に送るのに対して、乗客が料金を支払うということを主な内容とする旅客運送契約が締結されています。もし、タクシー会社の運転手が不注意で交通事故を起こせば、旅客運送契約を不履行したことになりますので、タクシー会社は商法590条に基づいて損害賠償責任を負うことになります。

2 タクシー会社の責任の時効

 タクシー会社の責任について使用者責任と運行供用者責任は、他の事故と同様に3年です。しかし、タクシーに乗車中の事故については、上記1(3)であげました旅客運送契約違反が問題になりますので別になります。商法522条は旅客運送契約不履行に基づく責任について時効を5年としています。ですので、不法行為責任や運行供用者責任が時効により消滅していたとしても、交通事故の被害者はタクシー会社に対して責任を追及できる余地があることになります。

 

   いずれにしても、交通事故の損害賠償の問題を長期間放置しておくのはよくありません。時間が経てば経つほど証拠が集めにくくなったり、記憶も変遷していきます。忙しい等の理由で放置することなく、キチンと処理していくべきです。

(弁護士中村友彦)

 

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