事故の損害として争いになるものの一つに、休業損害があります。休業損害は、交通事故で負傷し、仕事ができなくなったために収入が減少してしまった場合に、事故がなければ得られたと思われる収入と現実の収入額との差額です。家事従事者の場合には、目に見える形での収入がありませんので、現実の収入減はありませんが、家事労働を金銭評価して、制限された分について、休業損害が認められています。交通事故の損害賠償の中で、家事従事者とされるのは主婦であることが多いですが、主夫の場合もあります。
1 家事従事者の休業損害
最高裁昭和50年7月8日判決(裁判集民115号257頁)は、家事労働が財産上の利益を生ずるものであり、これを金銭的に評価することが不可能といえないとして、家事労働の制限の損害を認めています。そして、一般的に学歴計・女性全年齢平均賃金を基準に計算されるなどしますが、年齢、家族構成や家事労働の内容等に照らして年齢別平均賃金を採用したり、平均賃金の6割といった減額した基準が使用されることがあります。
2 主夫の場合
男性の家事従事者であっても、当然のごとく、家事従事者としての休業損害は認められます。その場合の金銭評価の基準が問題になりますが、女性の平均賃金が採用される傾向にあるようです。男性と女性の家事労働の経済的評価が異なるのはおかしいですので同じ基準が使用されるのは妥当であるとは思いますが、家事労働者=女性という考えを基礎としていますので、この点ではおかしいと思います。個人的には全労働者の平均賃金を使用するべきではないかと考えます。
(1)横浜地裁平成24年7月30日判決(交民45巻4号922頁)
横浜地裁平成24年7月30日判決は、交通事故で、主夫の家事労働の休業損害が争われた事案です。上記横浜地裁判決は、「本件事故当時、原告の妻が正社員として働いており、原告が専業主夫として洗濯、掃除、料理、食器洗い等の家事労働を行っていたことが認められ、原告は家事従事者に該当すると認めることができる」としたうえで、「家事従事者の休業損害は、学歴計・女性全年齢平均賃金を基礎として算定すべきである」「原告の休業損害の基礎収入は、入院して休業を開始した平成18年の学歴計・女性全年齢平均賃金は、343万2500円である。原告は、就労している妻に代わって家事労働を行っており、原告がかかる賃金に相当する労働を行っていたと認められるから、これを基礎とする。」としています。
(2)東京地裁平成14年7月22日判決(交民 35巻4号1013頁)
東京地裁平成14年7月22日判決の事案は、右下腿開放骨折、左膝蓋骨骨折、恥骨結合離開、膀胱破裂の傷害を負った71歳の被害者の家事労働が問題になった事案です。被害者は、その所有する田畑を耕作して自家用の米、野菜を収穫したり、パーキンソン病で寝たきりの状態となった妻の介護を行っていました。上記東京地裁は、農業によって収益を得ていたことを認めるに足りる証拠はないが、妻の介護を行っていた点はいわゆる家事労働と認めるべきであり、被害者の行っていた介護の内容・程度に照らし、賃金センサス産業計・企業規模計女子労働者学歴計65歳以上の平均年収の80パーセントを基礎として、事故日から妻が死亡した日までの休業損害を認めました。
(弁護士中村友彦)