交通事故で傷害を負った場合、その受傷に関係して、交通事故による傷害の治療以外の医療行為が必要になることがあります。例えば、交通事故の被害女性が妊娠しており、交通事故による傷害の治療のためにⅩ線検査を受けた場合、被害女性が異常出産の不安から中絶するようなケースです。必ずしも、医学上、中絶の必要性が高いとは言えない場合、交通事故による損害として相当因果関係があるかが問題となります。
なお、交通事故による傷害の影響で早産・死産となったり、中絶が必要になった場合、交通事故による損害として賠償の対象になるのは当然です。
1 大阪地裁平成17年1月31日判決(交民38巻1号187頁)
大阪地裁平成17年1月31日判決では、妊娠中絶費用と交通事故との間の因果関係が争われましたが、妊娠中絶費用19万3590円を交通事故による損害として認めました。交通事故により、肛門周辺裂傷などの傷害を負い、人工肛門を装着したこと、入院し肛門括約筋再建術を受けたが、手術に当たり、投薬やレントゲン撮影等を受けたこと、婦人科を受診し、妊娠していることが判明したが、上記のとおり、投薬やレントゲン撮影、手術を受けていたことから、胎児奇形等に対する不安が強かったため、医師と相談の上、妊娠中絶手術を受けたことが認められるところ、原告は、妊娠したことの認識のないままに、交通事故により治療や検査のために投薬やレントゲン撮影検査等を受けていたため、やむを得ず妊娠中絶手術を受けたものということができ、妊娠中絶費用と交通事故との因果関係を認めることができるとしました。
2 大阪地裁平成元年3月31日(自保ジャーナル821号2頁)
大阪地裁平成元年3月31日判決も、交通事故によって負った傷害の治療を行い、胎児に悪影響を及ぼす可能性のある治療を継続している妊婦が中絶した事案で、胎児の中絶費用4万9000円を交通事故による損害として認めました。
(弁護士 中村友彦)