交通事故で、大怪我を負い、内臓を摘出しなければならないことはあります。そのような摘出を受ける内臓の一つとして、胆のうがあります。胆のうが交通事故を原因として摘出された場合、自賠責保険では後遺障害として認定がされます。ただ、胆のうが摘出されるような事故であれば、周辺部の臓器も損傷を受けて、周辺部の臓器にも後遺障害が残存することが多いですので、胆のうのみが問題となるケースは珍しいです。
1 胆のう(胆嚢)
胆のうは、肝臓の下に張り付くように存在している小さい袋状の器官です。長さは約10センチ、幅は約4センチで、50〜60mlの胆汁を貯えることができます。胆のうは肝臓で作られる胆汁(1日で1ℓほど作られます)を濃縮し貯蔵します。胆汁は主に脂肪分の消化を助ける働きがあり、必要に応じて胆のうが収縮して、十二指腸へ胆汁を送り出し食物の消化を助けます。
2 自賠責後遺障害等級
胆のうの摘出は、自賠責保険では後遺障害13級11号(胸腹部の機能に障害を残すものに含まれる)と認定されます。
3 胆のうに関する裁判例
(1) 大阪地裁平成18年7月27日判決(自保ジャーナル1679号)
大阪地裁平成18年7月27日判決は、交通事故で鎖骨変形、左下肢の疼痛症状や、脾臓・胆のうの摘出をすることになり、自賠責保険で併合6級になった事案です。労働能力喪失率が争われました。胆のう摘出以外の後遺障害が関わっているので、胆のうのみの労働への影響率は分かりませんが、上記大阪地裁は、胆のうの全摘の影響は余り大きく評価できないと述べています。結論としては、自賠責保険であれば67%の労働能力喪失率であるところを、38%としています。
(2) 岡山地裁平成10年3月26日判決(交民 31巻2号512頁)
岡山地裁平成10年3月26日判決は、交通事故で、胆のう全摘出、慢性C型肝炎による肝機能障害の後遺障害を残した被害者の損害賠償請求権についての消滅時効の起算点が争点になりました。加害者側は、胆のうの後遺障害部分については、胆のう摘出時に後遺障害が確定するのであるから、その時点を症状固定として時効が進行すると主張しました。上記岡山地裁は、原告(被害者)は、C型肝炎の症状固定時点になって初めて交通事故の受傷による損害の全容を知り得る状態になったものというべきであるとして、胆のう全摘出時点又は慢性C型肝炎罹患時点ではなく、すべての後遺障害について症状が固定したC型肝炎の症状固定時点であると判断しました。
(弁護士中村友彦)