交通事故でひき逃げというと、まずは自動車に歩行者が轢かれて、自動車が逃げてしまう場面が頭に浮かびます。しかし、交通事故は、自動車が関わるものだけに限られませんので、自転車が歩行者をはねたりして、被害者を放置したまま、逃げてしまうというケースもあります。
1 自転車での交通事故の場合に絶対にやるべきこと
自転車との交通事故にあった場合、きちんと相手の連絡先を聞いて確保するべきです。連絡先を聞くことなく加害者に逃げられてしまうと、後日、損害賠償をしようとしても、加害者の連絡先を見つけるのに苦労しますし、最悪、連絡先が分からず、責任追及できないということもありえます。警察にも届出を出しておいて、実況見分をやってもらえば、後日の証拠になりますし、警察への届出により交通事故証明書が発行され、事故の発生の証明や、自らが加入している保険への請求の際に提出すれば手続きがスムーズに進むことが多いでしょう。また、警察にも届出を行っておけば、警察が捜査のうえ、加害者を発見してくれることもあります。
2 自転車運転者の義務
自転車を運転していた人は、自転車が道路交通法上軽車両に当たることから、救護義務や事故報告義務を負うので(道路交通法72条1項)、自転車でひき逃げをした者は、これらの義務に違反することになります。これらの義務を怠った場合には、救護義務違反は1年以下の懲役又は10万円以下の罰金(道路交通法117条の5第1号)、事故報告義務違反の場合には3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金(道路交通法119条1項10号)になる可能性があります。
3 民事上の責任
自転車でひき逃げをした人に対して民法709条に基づいて損害賠償請求をすることができます。さらに、事故当事者以外にも、加害者が小学生のような場合には、親権者に対しても、民法714条に基づき責任追及をすることができますし、業務中の事故であると言える場合には、使用者に対しても、民法715条に基づき請求をすることができます。
4 ひき逃げを行った者の連絡先が不明の場合
散々手を尽くしても、自転車でひき逃げを行った者の連絡先が分からない場合には、損害賠償で加害者に責任追及することができなくなってしまいます。自転車のひき逃げ事故の場合には、自賠法の適用がなく、自動車がひき逃げを行って加害者が不明の場合に使用できる政府保障事業のような制度がありませんので、困った事態になります。
被害者としては、自らの加入している傷害保険や社会保険(健康保険・労災保険)に頼らざるをえなくなります。
(弁護士中村友彦)