交通事故で全身を強打するなどして、脳損傷を受けた場合に、こん睡状態になったままになってしまうことがあります。このような状態は、遷延性意識障がい(植物状態)と言いますが、加害者へ損害賠償請求をするなどの物事を判断する能力がありません。そこで、交通事故の加害者に対し損害賠償請求する場合には一定の手続きをとる必要があります。
1 遷延性意識障がい(植物状態)
遷延性意識障がいと植物状態の意味は同じです。その定義については、日本脳神経外科学会から1972年に以下のような定義が提唱されています。
「Useful lifeを送っていた人が脳損傷を受けた後で以下に述べる6項目を満たすような状態に陥り、ほとんど改善がみられないまま満3ヶ月以上経過したもの
1) 自力移動不可能
2) 自力摂食不可能
3) 尿失禁状態にある
4) たとえ声を出しても意味のある発語は不可能
5) ‘目を開け’‘手を握れ’などの簡単な命令にかろうじて応じることもあるが、それ以上の意思の疎通は不可能
6) 眼球はかろうじて物を追っても認識はできない 」
2 被害者が未成年の場合
交通事故で遷延性意識障がい(植物状態)になった被害者が未成年の場合には、親権者がいるのであれば、親権者が法定代理人になりますので、親権者が損害賠償請求を行えばよいです。もし、親権者がいない場合には、未成年後見人が法定代理人になりますので、親権者がいる場合と同じになります。
3 被害者が成年の場合
成年が被害者の場合には、成年後見人をつける必要があります。配偶者や4親等内の親族などを、成年後見人に選任してもらうように、家庭裁判所に成年後見開始の審判の申立をします。
交通事故の被害者の家族は、成年後見人とならない状態で事実上交渉を行っても、加害者側が応じてくれるのであれば、成年後見人をつけなくても解決することはありますが、訴訟等の手続きをとろうとする場合には成年後見人をつけたうえで、訴訟等の手続きをとることになります。
成年後見制度を利用することは、申立手続きが必要ですし、成年後見人になった後も定例の報告等があって煩雑です。そのため成年後見を利用しない家族もいますが、交通事故の被害者の権利を守るという観点からは成年後見を利用した方がいいですし、仮に成年後見人となった親等が亡くなったり、判断能力がなくなってしまった場合でも、家庭裁判所が職権によって別の成年後見人を速やかにつけてくれることも期待できます。
4 成年後見申立に関する費用は交通事故の損害となるか
損害賠償請求をするための前提の費用であり、一般的に加害者に対して成年後見に関する申立に関する費用は、加害者へ請求できるとされています。この点については、「交通事故の後遺障害により、被害者が判断能力を失った時、成年後見申立に関する費用は損害と認められるか」へ。
なお、成年後見の申立を当事務所にご依頼頂く場合には、交通事故事件以外については成年後見のページをご覧ください。交通事故事件とあわせて受任する場合には、成年後見申立に関する弁護士費用は頂いていません。
(弁護士中村友彦)