交通事故が自動車同士の事故のような場合、軽い衝突で車体の塗装がはがれたり、少し車体が凹んだ程度であれば、通常自力走行が可能ですから、レッカー車を使用して事故車両を牽引する必要はありません。しかし、交通事故が重大なものであったり、車体の損傷の箇所によっては、事故車両を運転できない乃至運転が危険な状態になってしまうことがあります。その場合、修理工場等に持って行く必要がありますので、レッカー車等で事故車両を牽引しなければなりません。
1 レッカー車代(牽引費用)
交通事故で、運転することができなくなった車両をレッカー車で牽引する場合にかかる費用がレッカー車代です。レッカー車を使用しない場合でも、トラックに載せて運搬したりすることで(バイク等)、牽引ないし引き揚げ費用がかかります。
2 交通事故による損害
道路交通法76条3項では、「何人も、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない。」と規定されていることから、事故車両の所有者としては道路から事故車両を移動させる必要があります。また、交通事故によって事故車両が運転できなければ、当然に費用をかけて移動させなければ修理等できませんので、レッカー等を使用して費用がかかることは想定された事態です。したがって、通常の場合、レッカー車代(牽引費用)は交通事故の損害と認められますので、争いになることはありません。但し、損害として認められるとしても無制限ではなく、当然に必要性や相当性が認められる限度です。例えば、北海道で起きた交通事故で、事故車両を福岡に牽引するような場合、牽引費用全額は損害と認められない可能性もあります。
3 牽引費用に関する裁判例
(1)大阪地裁平成13年12月19日判決(交民34巻6号1642頁)
大阪地裁平成13年12月19日判決の事案は、自動車同士の交通事故で、廃車費用や買替諸費用等が問題となり、その一つとして牽引費用の金額が争われました。加害者側は、牽引が2度行われていたことから、その移動の必要性・相当性を争いました。しかし、上記大阪地裁は「原告は、本件事故により走行不能となり、深夜の事故であったことから、まず、クレーン会社に事故現場から同社へ引き揚げてもらい、その後、同社から修理工場へ移動してもらった。これに要した費用は27万9300円と認められる。被告らは、二度にわたる引き揚げの必要性、相当性はないと主張するが、この事情からすれば、必要性が認められる。」として、牽引費用27万9300円を損害として認めました。
(弁護士中村友彦)