交通事故で傷害を負い、それにより一定期間の間、安静にしたり、入通院のために働けないことがあります。その場合、自営業で工場等を営んでいるであれば、代わりの人を臨時的に雇わないといけなくなります。このように臨時で雇った代替労働力(アルバイト)の費用が、交通事故の損害と認められるかが問題となります。
1 証拠を残す必要性
保険会社は、交通事故による損害としてアルバイト料等を示談の段階では払うといっておきながら、後で訴訟等になると、示談の時では確かにそう言ったが、訴訟では一切払わないとして、争ってくることがあります。保険会社が払ってくれると言っていたからと安心して、いい加減な処理をしていると、後で証拠がなく交通事故の損害として認められなくなることもありますので、出勤簿、領収書、お金の流れが分かるように口座振り込みにするといったことをして、しっかり証拠を残しておく必要があります。
2 大阪地裁平成10年7月3日判決(交民31巻4号1006頁)
大阪地裁平成10年7月3日判決は、交通事故により、頸部捻挫、頭部外傷Ⅰ型の傷害を負い、平成8年4月10日から同年11月25日まで通院治療を受けた事案です(実通院日数165日)。この大阪地裁判決は、交通事故による負傷治療のために、収入の減額を生じたことを認めるに足りる証拠はないとして原告の本来的な意味の休業損害は認めませんでした。けれども、原告は、交通事故による負傷のために原材料及び製品の運送作業を行うことができなかったため、平成8年4月11日から同年10月31日まで運送作業のアルバイトを雇い、合計168万円を支払ったことが認められるから、これは、交通事故による原告の負傷による損害ということができるとしました。この大阪地裁判決は、上記168万円について休業損害の項目で述べていますが、実質は代替労働力の費用を交通事故の損害としたものだと言えます。 (弁護士中村友彦)