交通事故等で使用される損害賠償責任保険(ここではとりあえず任意自動車保険とします)は、加害者が被害者に対して、賠償したことによって生じる負担を填補することを目的とした保険です。そのため、被害者は加害者が加入している損害賠償責任保険契約の当事者ではありませんから、本来、直接請求できず、加害者に対して、損害賠償請求権を行使することになります。しかし、任意自動車保険では、一定の条件がありますが、約款により、交通事故の被害者等が損害賠償請求できるようになっています。
1 任意自動車保険へ直接請求して支払われる場合
交通事故によって、加害者が損害賠償責任を負い、かつ任意自動車保険が保険対応しなければいけないことを前提に、下記のような場合などに約款上被害者に対して損害賠償額が支払われるようになっています。
①損害賠償責任の額の確定(判決が確定したり、裁判上の和解や調停、書面による合意が成立したような場合)
②損害賠償請求権不行使の書面による承諾(任意自動車保険から損害賠償額の支払いを受けた後は、それ以上損害賠償請求権を行使しない旨の書面での被害者の承諾)
③損害賠償責任を負う者全員の破産など
④損害賠償額が保険金額を超えることが明らかな場合
2 自賠責保険との違い
自賠責保険では、自動車損害賠償責任法16条により直接請求権が認められており、任意自動車保険のように約款で定められているのではなく、法律で定められたもので被害者救済のために、被害者に有利な内容となっています。
例えば、任意自動車保険の場合、保険契約者又は被保険者が悪意(故意)であれば、免責となり任意自動車保険会社は保険対応しません。しかし、自賠責保険の場合、被害者からの直接請求に対しては、保険契約者又は被保険者が悪意であっても、応じる必要があります(自賠法16条4項。加害者からの請求に関しては自賠法14条で免責となります)。
3 保険法22条
直接請求自体を認めたわけではありませんが、被害者に優先的な地位を与えるために、保険法22条では、保険金請求権について被害者に先取特権を認めています(保険法22条1項。約款でも先取特権の規定を設けていることは多いと思います)。先取特権とは、債権者が他の債権者に先立って優先的に弁済を受けることのできる権利をいいます。そして、原則として、保険金請求権を譲渡、質入や差押えができないものにしています(保険法22条3項)。保険法22条は強行規定であり、これに反する規定は無効になりますが、約款の被害者に直接請求を認める規定は、先取特権以上の保護を被害者に認めるものですので、一般的に有効と解されています。
(弁護士中村友彦)