自転車による交通事故が世間で注目されるようになり、平成27年6月1日から改正道路交通法が施行され、自転車運転者講習制度の導入により、今後は自転車の道路交通法違反の取り締まりが厳しくなると思います。しかし、信号無視や、飲酒運転の規制は分かりやすいのですが、解釈が分かれる可能性があるものに、傘をさしながら自転車を運転することがあげられます。
1 傘をさしながらの自転車運転の規制
傘をさしながら自転車を運転することについての規制を定めた規則の文言は、各都道府県で異なっています。道路交通法71条6号で「前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項」が、自転車の運転者の遵守事項とされていますので、道路交通法71条6号を受けて、各都道府県では道路交通法規則が定められています。
(1) 大阪府
大阪府道路交通規則13条2号では、「かさをさし、物をかつぎ、又は物を持つ等視野を妨げ、若しくは安定を失うおそれがある方法で自転車を運転しないこと。」が定められています。したがって、傘をさしながらの自転車の運転はダメとされています。
但し、この「かさをさし」が、自転車に傘を固定している場合まで含むのかや、全く周囲に人がいない状態までを禁止するのかは、今の段階では解釈に争いが出ると思います(但し、傘を自転車に固定することが仮に許容されても、安全運転義務違反や積載方法の違反の問題があります)。
(2) 京都府
京都府交通規則12条9号では、「傘を差して大型自動二輪車、普通自動二輪車、原動機付自転車若しくは自転車を運転し、又は傘を差した者を乗車させて大型自動二輪車若しくは普通自動二輪車を運転しないこと。ただし、交通の極めて閑散な道路において自転車を運転する場合にあっては、この限りでない。」とされており、傘をさして自転車の運転することができる場合を認めた規定になっています。
(3) 三重県
三重県道路交通法施行細則16条2号では「かさをさして(車体に固定した場合を含む。)、自動二輪車、原動機付自転車又は自転車を運転しないこと。」とされ、自転車に傘を固定して運転する場合を明確に禁止しています。
2 道路交通法70条の安全運転義務違反
自転車運転者講習の要件となる危険行為として定められているものに、道路交通法70条の安全運転義務違反があります。道路交通法70条は「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない。」と抽象的な規定となっています。 傘をさして自転車を運転するような場合も、この道路交通法70条違反になると考えられています。ただし、原則道路交通法70条違反になるとは思うのですが、例外が全く認められないかは今後争われるのではないでしょうか。
3 罰則
傘をさしながらの自転車の運転を取り締まられた場合、交通反則通告制度が利用できませんので、罰金が科されれば前科がついてしまいますので、気をつけなければいけません。
(1) 道路交通法70条違反の場合
道路交通法第119条1項9号により、3月以下の懲役又は5万円以下の罰金となっています。
(2) 道路交通法71条6号違反の場合
道路交通法120条1項9号により、5万以下の罰金となっています。
4 交通事故の際の民事上の評価
傘をさして自転車を運転していたことで、注意が散漫になったことにより、交通事故を起こしたり等の場合、傘をさしていたことは過失にあたって考慮されます。交通事故における過失割合の基準を示した『別冊判例タイムズ38号 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準』では、傘をさすなどしてされた片手運転(道路交通法70条違反)を自転車の著しい過失として、過失割合の修正要素としています。
自転車の運転の取り締まりが厳しくなってきたのは、交通事故の際に自転車が何らかの法令違反を犯しているケースがあるからかもしれません。大阪府警のホームページによれば、平成27年度の自転車の死亡事故では、9割以上に法令違反があり、4割が信号無視だそうです。
(弁護士中村友彦)