飼い犬を放し飼いにしていたり(条例で厳しく取り締まりがされていますので、最近はあまりないと思いますが)、飼い犬の係留を解いたところ、どこかへ行ってしまったような時に、いきなり飼い犬が道路に飛び出し、それが原因で交通事故が生じたりすることがあります。飼い犬が原因で、交通事故が生じた場合に、民法上飼い主が賠償責任を問われることがありますし、過失傷害罪などの刑事責任を問われることもあります。
1 民法718条
民法718条1項は、『動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う』と定めています。この責任を飼い主が免れるには、飼い主は民法718条1項但し書きが定める『その動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその動物を管理した』ことを主張立証しなければなりません。
2 相当な注意
飼い主が責任を免れるために必要な『相当な注意』とは、通常予測しうる程度の危険に備える注意義務を意味し、異常な事態に対処しうるほどの注意義務まで課したものではないとされていますが(最高裁昭和37年2月1日判決・民集16巻2号143頁)、飼い犬について問題となる事案では、裁判例ではほとんど免責立証を認めない傾向にあるようです(ただし、免責が認められなくても過失相殺の余地はあります)。
3 『動物が他人に加えた損害』
交通事故が飼い犬が道路に飛び出して生じたような場合、民法718条の適用に際し、『他人に加えた損害』にあたるのかが論じられることがあります。長野支地裁上田支部昭和55年5月15日判決(交民14巻1号55頁)では、公道に飛び出した飼い犬に接触して自動二輪車が転倒した交通事故の事案で、犬の危険な性質の発現行動とはいえないとして、民法718条の適用を否定しました。
しかし、民法718条で、動物の占有者に不法行為の一般原則よりも重い責任を負わせたのは、動物が人間に見られるような理性による制御を欠く恣意的な行動をとる危険があり、そのような危険を事実上管理できるのは占有者だからです。そうであれば、吠える・噛むといった行動だけでなく、飼い犬の統制のとれない独立した行動によって生じた損害は『動物が他人に加えた損害』と言うべきです。
上記長野地裁上田支部判決の控訴審である東京高裁昭和56年2月17日判決(交民14巻1号50頁)や上告審である最高裁昭和56年11月5日判決(判時1024号49頁)でも、『動物が他人に加えた損害』であることを認めて民法718条を適用しています。
4 放し飼いについての規制
飼い犬の管理については、各都道府県の条例により規制がされています。大阪では、大阪府動物の愛護及び管理に関する条例4条により、一定の場合を除き、犬の飼い主は、その飼い犬を、人の生命、身体又は財産に害を加えるおそれのない方法で、常に係留しておかなければならないとされています。違反の場合には大阪府動物の愛護及び管理に関する条例43条により拘留又は科料にするとされています。
(弁護士中村友彦)