交通事故の損害賠償において、誰もが注目する損害項目に慰謝料があります。この慰謝料というのは、実務上、一定の基準が存在しますが、必ずしも常に基準どおりに算定されるわけではなく、様々なことが考慮されて慰謝料の金額が決まります。慰謝料の算定の際に考慮される事由としては、傷害の部位・程度、交通事故により退職を余儀なくされたか、昇進・昇格の遅れ、加害者の態様等々があります。その中で、よく交通事故の相談の際に、被害者の方が問題視されるのは、加害者に誠意が見られないことが挙げられます。
1 慰謝料
慰謝料とは、被害者の精神的な苦痛を金額にして評価したものです。精神的苦痛は、他人からは目に見えるものではありませんので、その精神的苦痛の前提となる事情を斟酌して、精神的苦痛が生じるのが相当であると判断された場合に、その精神的な損害を金銭によって填補するために認められます。
2 加害者に誠意が見られないこと
加害者に誠意が見られないということは、交通事故の被害者が感じることが多いと思います。ただ、誠意が見られないという事実そのものにより慰謝料が認められるわけではなく、誠意が見られないことにより、被害者の精神的な苦痛が増えるのが相当だと言える場合に慰謝料が認められます。そのため、単に謝罪や見舞をしなかっただけでは、なかなか慰謝料を増額するのが相当とはならず、交通事故の加害者が非常識極まりない対応(証拠隠滅を図ったなど)をとった場合などに限定されると言われています。
3 相手方の不誠実な対応が慰謝料増額事由とされた裁判例
(1) 東京地方裁判所平成16年3月22日判決(交民37巻2号390頁)
東京地方裁判所平成16年3月22日判決は、道路左側にあった街灯の柱に加害車両の左側を衝突させた交通事故で、被害者である同乗者が、頸髄損傷を負い、自賠責後遺障害等級第1級3号の後遺障害が残存した事案です。
上記東京地裁は、加害者が、約8か月間の間に4回の和解期日を経た段階で、突如として、交通事故と傷害ないし後遺障害との間の因果関係に疑義があるとして和解を拒否するなどしたことについて、傷害ないし後遺障害との間の因果関係に疑念を抱く根拠は薄弱であって、その主張の時期に照らしても、誠実さを欠く訴訟対応であるといわざるを得ないとしました。そのうえで、慰謝料算定の上で増額事由として考慮しました。
(2) 大阪高等裁判所平成17年4月12日判決(交民38巻2号315頁)
大阪高等裁判所平成17年4月12日判決は、交通事故で死亡した被害者の子らが、加害者車両の運転者や使用者である会社に対して損害賠償請求をした事案です。上記大阪高裁は、加害者側の不誠実な態度を慰謝料増額事由として挙げています。
(弁護士中村友彦)