交通事故の損害賠償請求は、治療期間、示談交渉や訴訟という流れを経ることになりますが、一般的に相当程度の時間がかかります。重傷の事案では、治療期間が2年以上になることも珍しくはありません。そのため、時間がかかることから、交通事故の後、交通事故とは関係がなく、加害者が亡くなる場合があります。このような場合、加害者が保険に入っていたかどうかで、手続きの流れが変わってくることになります。
1 加害者が任意保険に入っていた場合
交通事故の加害者が任意保険にちゃんと加入しておれば、加害者が亡くなり、その相続人が相続放棄等をしたとしても、任意保険(共済)の会社は損害賠償金を支払ってくれます。ですので、加害者が生きている場合とあまりかわりません。
2 加害者が任意保険に入っていなかった場合
加害者が任意保険に入っていなくても、自賠責保険に加入しておれば自賠責保険は損害賠償金を支払ってくれますが、最低限の補償にすぎません。交通事故は加害者が自動車以外の場合もありますので、その場合には自賠責保険がありませんから、加害者に請求せざるをえなくなります。また、被害者が人身傷害保険に加入しておれば、人身傷害保険から治療費や慰謝料の一部は回収できるでしょうが、必ずしも損害額の全部が補償されるわけではありません。
結局、加害者が任意保険に入っていなかった場合、被害者が自賠責保険等で損害の填補を受けることができなかった分については加害者自身に損害賠償請求せざるをえませんが、加害者が死亡した場合には加害者の相続人に対して請求していくことになります。
(1)相続人
相続人の範囲と順序は民法で定められており、相続人は加害者の一切の権利義務を引き継ぎます。そのため、加害者の戸籍等を調査し、加害者の相続人を見つけ出して相続人に請求することになります。
(2)相続放棄や限定承認をされた時
加害者の資産が多ければ問題ないのですが、加害者に資力がない場合には相続人は交通事故の損害賠償債務を負うのを嫌がる人が普通です。そのため、相続人は、自己のために相続があったことを知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所において、相続放棄や、限定承認(死者の財産の範囲内で債務を引き継ぐ。相続人全員で行う必要がある)をすることになります。
相続人が相続放棄や限定承認をした場合には、被害者は、家庭裁判所により選任される相続財産管理人に対して損害賠償請求を行って、遺産の範囲内で損害賠償金を支払ってもらうことになります。
(弁護士中村友彦)