交通事故で傷害を負い、入通院に有給休暇を使用した場合、休業損害として認められるかについて、財産的損害とは評価できず慰謝料で考慮されるべきだという少数の裁判例がありますが、基本的に多数の裁判例は休業損害として認めています。表面上は、減収はありませんが、仮に交通事故がなければ、有給休暇を有意義に使用できたのであり、交通事故によりそれが犠牲にされたのですから、損害として認められるべきなのは明らかです。
1 休業損害としてそのまま認めた裁判例
名古屋地裁平成15年9月19日判決では、有給休暇の使用分44日3時間につき、交通事故のあった年の前年収入を基礎として、休業損害の発生を 認めました。
2 有給休暇請求権の損失と捉えて、それを財産的損害として認めた裁判例
東京地裁平成6年10月7日判決(交民27巻5号1388頁)では、「欠勤期間のうち6日間を有給休暇を振り当てたため給与は全額支給されて計算上の休業損害は生じていないことが認められる。ところで、有給休暇はその日の労働なくして給与を受けるもので労働者の持つ権利として財産的価値を有するものというべく、他人による不法行為の結果有給休暇を費消せざるを得なかつた者はそれを財産的損害として賠償請求し得ると解するのが相当である」として、1日の有給休暇の財産的価値を年収を1年間の日数で除した額で算出し、交通事故による損害と認めました。
3 慰謝料で考慮すべきとした裁判例
大阪地裁平成15年8月27日判決(交民36巻4号1076頁)では、「有給休暇を費消したこと、有給休暇のため、給与の減額はなされなかったことが認められるが、実際の減収はないことからすると、休業損害は認められない。ただし、本件治療のために有給休暇を使用しなければ、原告は同休暇を自己都合で有効に使用することができたと考えられることから、これについては、後記のとおり、入院慰謝料において考慮することとする。」とし、交通事故で治療のために、有給休暇を使用したことを休業損害ではなく、慰謝料で考慮しました。(弁護士中村友彦)