交通事故により、重篤な傷害を頭部に受けた結果、てんかん症を発症することがあります。てんかんとは、世界保健機関WHOによれば、種々の病因によって起こる慢性の脳障害で、大脳ニューロンの過剰な発射の結果起る反復性(2回以上)の発作を主徴とする慢性の脳疾患とされています。
てんかんの原因は様々ですが、100人に1人がかかるとされ、症状も個人差があります。交通事故後に、てんかんの症状が生じたとしても、必ずしも外傷性てんかんとは限りませんので、脳損傷の程度、検査所見(特に脳波検査)、症状の内容や受傷から初回の発作までの期間等を総合的に判断します。
1 外傷性てんかんの後遺障害一覧
てんかんの症状が重い場合、脳損傷の程度が大きく高度な高次脳機能障害が残存していることがあり、そのような場合には高次脳機能障害の後遺障害第3級以上で認定されることになります。交通事故によって外傷性てんかんを発症した場合、後遺障害等級は、発作の型や回数によって、以下のようになります。
等級 |
内容 |
5級2号 |
1ヶ月に1回以上の発作があり、かつ、その発作が「意識障害の有無を問わず転倒する発作」又は「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す動作」であるもの |
7級4号 |
『「意識障害の有無を問わず転倒する発作」又は「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す動作」』が数ヶ月に1回以上あるもの又は『「意識障害の有無を問わず転倒する発作」又は「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す動作」』以外の発作が1ヶ月に1回以上あるもの |
9級10号 |
数か月に1回以上の発作が「意識障害の有無を問わず転倒する発作」又は「意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す動作」以外の発作であるもの又は服薬継続によりてんかん発作がほぼ完全に抑制されているもの |
12級13号 |
発作の発現はないが、脳波上に明らかにてんかん性棘波を認めるもの |
(1)転倒する発作
「意識消失が起こり、その後ただちに四肢等が強くつっぱる強直性のけいれんが続き、次第に短時間の収縮と弛緩をくりかえす間代性のけいれんに移行する」強直間代発作や脱力発作のうち「意識は通常あるものの、筋緊張が消失して倒れてしまうもの」が該当します。
(2)意識障害を呈し、状況にそぐわない行為を示す発作
意識混濁を呈するとともにうろうろ歩き回るなど目的性を欠く行動が自動的に出現し、発作中は周囲の状況に正しく反応できないものが該当します。
2 交通事故との因果関係
てんかんは、交通事故との因果関係、外傷性てんかんであるかが争点になることがあります。以下のWalkerの外傷性てんかんの診断基準が使用されることが多いですが、当該基準の条件を満たさないからといって、外傷性てんかんではないとは言えません。
①発作がまさしくてんかんである
②外傷以前にてんかん発作を起こしていない
③他にてんかん発作を起こす脳又は全身疾患を持たない
④外傷が脳損傷を起こすほど強いものであった。
⑤最初のてんかん発作は外傷から時間があまり長く経過していない(閉鎖性2年、開放性10年)
⑥てんかんの発作型、脳波所見が脳損傷部位と一致している
(弁護士中村友彦)