交通事故により負傷し、その傷害内容が大きい場合、被害者の生活が一変することはよくあります。足の骨折等により、歩行に支障がでたことで、交通事故前は問題がなかった階段での移動ができなくなるなどにより、家から出ることが一人ではできなくなるといったものです。このような場合、転居を行ったりして、何とか生活できるように被害者は工夫を行いますが、転居費用等が交通事故の損害として賠償をうけることができるのかが問題となります。
基本的には、交通事故の被害者の受傷の内容、後遺障害の程度・内容等から、転居の必要性があれば、相当な範囲で損害として認められます。ただし、介護を要するような重傷事案ならともかく、そのような傷害でなければ、加害者側の保険会社は中々支払いに応じません。
1 裁判例
(1) 精神的な症状を重視して認めた事案
大阪地方裁判所平成19年12月14日判決(自保ジャーナル1736号11頁)は、横断歩道を横断中の小学生が大型貨物自動車に轢かれて負傷し、足指の機能障害(9級15号)、左足の瘢痕、疼痛、感覚異常、外傷後ストレス障害で併合8級の後遺障害が残存した事案です。上記大阪地裁は、原告が、交通事故現場付近にくると泣き叫び、体の震えが止まらなくなるパニック症状を起こしていたので、事故現場が通学路になっていたため1キロほど遠回りして通学させていたが、そのこと自体が事故を想起させて精神状態の回復に障害となっていたことなどの原告の主張を認め、転居費用を相当因果関係のある損害として認容しました。
(2) 転居の必要性は認められないが、交渉経緯を重視して認めた事案
東京地方裁判所平成18年2月7日判決(平成17年(ワ)754号事件)は、歩行者と自動車の交通事故で、左足痛については12級12号に、左第2足指中足指節関節の機能障害については13級11号に、左下肢の醜状障害については後遺障害別等級表14級5号として併合11級と認定された事案です。上記東京地裁は、交通事故との相当因果関係について、原告の転居の必要性に関する立証がないからこれを認めることはできないとしました。そのうえで、上記東京地裁は、「しかし、担当者が、一定の範囲で賃料差額の支払う旨の合意が成立し、実際に引越費用として63万2100円が支払われた(甲14)ことからすれば、被告らが転居費用を不法行為による損害として認め、これを連帯して負担する旨の合意が成立したものと認められ、被告らには上記金額の転居費用の支払義務があると認められる。」として、原告の転居費用の請求を認めました。
(弁護士中村友彦)