交通事故で傷害を負い、治療のため、病院への入退院や手術前に医師や看護師等へ贈る謝礼について、交通事故による損害と認められるか争いがあります。日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する赤い本によれば、社会通念上相当なものであれば、交通事故による損害として認められますが、見舞客に対する接待費、快気祝等は道義上の出費であるから認められないとされています。肯定する考え方、否定する考え方で諸説ありますが、少なくとも、公的医療機関や、医療機関として医師謝礼を受け取らない旨の宣言・掲示をしている場合には、必要性が否定されることになるでしょう。
1 否定した裁判例
(1) 大阪地裁平成12年6月16日判決(交民33巻3号979頁)
大阪地裁平成12年6月16日判決は、交通事故で右足大腿部切断の後遺障害が残った事案ですが、「医師及び看護婦への謝礼は、患者が任意に感謝の意を込めてなすべきものであり、本件においてもそのような趣旨でなされたものというべきであるから、本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。」として、否定しました。
(2) 大阪地裁平成20年9月8日判決(交民41巻5号1210頁)
大阪地裁平成20年9月8日判決は、交通事故で右下腿解放骨折、右足関節外果骨折の傷害を負った事案ですが、「原告は、医師・看護師に対する謝礼として30万円を交付した旨主張する。しかしながら、これを認めるに足りる適確な証拠はないし、仮に、この事実が認められるとしても、原告の受傷内容、経過に照らし、当然に社会的相当性を有するものともいい難い。以上によれば、上記謝礼は、本件事故と相当因果関係がある損害としては認められない。」として、交通事故による損害とは認めませんでした。但し、この裁判例は、「受傷内容、経過に照らし」として、ケースによっては認められることを前提としています。
2 肯定した裁判例
東京地裁平成12年3月31日判決(交民33巻2号681頁)では交通事故で脳挫 傷等を負い、傷害が重傷であり、度重なる手術を経て約5年にわたり、複数の病院に入院していたことからすれば、世話になった医師に対する謝礼として、金50万円程度は社会的にみて相当であり、交通事故の損害の対象になるとしました。(弁護士中村友彦)