交通事故の場合、事故にあった被害者自身が損害賠償請求できるのは当然のことですが、死亡事故などの事案によっては、被害者以外の者に損害賠償請求が認められることがあります。民法711条では、「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償を請求しなければならない」と、被害者が死亡した場合において、固有の慰謝料を請求できる主体について定めています。民法711条では、「被害者の父母、配偶者及び子」とされていますが、それに限られるのか争いがあり、婚約者等も含まれるのかが問題となることがあります。
1 最高裁判所昭和49年12月17日判決
固有の慰謝料請求の主体になりうる者の範囲について、参考となる判例に最高裁判所昭和49年12月17日判決があります。この判例では、「被害者との間に民法711条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、同条の類推適用により、加害者に対し、直接に固有の慰謝料を請求しうる」とされており、一定の場合に民法の711条所定の「被害者の父母、配偶者及び子」以外に、固有の慰謝料請求をできる者を認めています。
2 婚約者に固有の慰謝料は認められるのか
交通事故の被害者の婚約者が上記最高裁判決の述べる「被害者との間に民法711条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係」がある場合には、固有の慰謝料請求が認められることになります。
しかし、2017年版赤い本の下巻の「講演 損害賠償額の算定について」では、『婚約者は、同居を開始し、内縁と評価し得るような場合は格別、基本的には「民法711条所定の者と実質的に同視しうべき身分関係」があるとは認められないと思われます』とされています。裁判例においても、婚約者に固有の慰謝料請求を否定した裁判例もあります(名古屋地方裁判所平成11年10月22日判決交民32巻5号1612頁)。
私見ですが、上記のような原則として婚約者に固有の慰謝料請求の主体を認めないのはおかしいのではないかと思います。不貞により婚約関係を破壊した場合には、基本的に慰謝料請求が認められるにもかかわらず、死亡事故という婚約関係を完全に無にしてしまう事情において慰謝料請求を基本的に認められないというのは、整合性がとれていないのではないでしょうか。婚約者に、原則として固有の慰謝料請求の主体性を認め、婚約関係の中身により、例外的に主体性を否定したり、慰謝料の金額を考慮する方はよいのではないかと思います。
交通事故の9か月前に同居をしており、落ち着いたら婚姻する予定だった事例であり、内縁関係と言ってもよい事例ですが、大阪地方裁判所平成27年4月10日判決(自保ジャーナル1952号102頁)では、婚約者に慰謝料100万円を認めています。
(弁護士中村友彦)