交通事故にあい、足を骨折するなどして最終的に可動域の制限が残存することがあります。足の場合、股関節、膝関節、足関節が可動域制限の後遺障害の対象となります。通常、可動域制限の認定は、健側(後遺障害が残存していない方)との比較により行いますが、これは関節運動が年齢等で個人差があるためです。しかし、交通事故で両足ともに可動域制限が残存した場合には健側が存在しませんので、可動域制限の認定方法が問題になります。
1 参考可動域角度との比較
可動域の測定は、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医師会により決定された「関節可動域表示ならびに測定方法」に準拠して定めた「第2 関節可動域の測定要領」に基づき行われます。健側が存在しない場合には、参考可動域角度を利用して両足の可動域制限を認定します。
2 股関節の参考可動域角度
股関節の参考可動域角度は、以下のとおりです。
運動方向 |
参考可動域角度 |
屈曲 |
125度 |
伸展 |
15度 |
外転 |
45度 |
内転 |
20度 |
外旋 |
45度 |
内旋 |
45度 |
基本軸は、屈曲・伸展は体幹と並行、外転・内転は両側の上前腸骨棘を結ぶ線への垂線、外旋・内旋は膝蓋より下ろした垂線となります。
外旋・内旋は、屈曲・伸展・外転・内転と異なり、参考運動です。屈曲・伸展・外転・内転は、日常の動作として重要なものとして主要運動であり、関節の運動の重要性に差があることから、主要運動、参考運動その他の運動に区別されています。
関節の可動域の後遺障害の認定は、原則として主要運動で行いますが、参考運動も評価の対象となることがあります。例えば、主要運動の可動域が2分の1または4分の3をわずかに上回る場合(原則として5度ですが、股関節の屈曲・伸展は10度とされています)、参考運動の可動域が2分の1または4分の3に制限されている場合には、後遺障害10級11号又は12級6号とされます。
3 膝関節の参考可動域角度
膝関節の参考可動域角度は、以下のとおりです。
運動方向 |
参考可動域角度 |
屈曲 |
130度 |
伸展 |
0度 |
基本軸は、大腿骨となります。屈曲・伸展は主要運動です。
4 足関節の参考可動域角度
足関節の参考可動域角度は以下のとおりです。
運動方向 |
参考可動域角度 |
屈曲 |
45度 |
伸展 |
20度 |
基本軸は、排骨への垂直線となります。屈曲・伸展は主要運動です。
5 原則として他動運動で計測
可動域の計測は他動運動によります。他動運動とは、交通事故の被害者自らの意思で動かすのではなく、他人の手等で動かすのが可能な関節運動のことです。ただし、交通事故による負傷で健が消失したなどの場合、例外的に、被害者自身の意思で動かすのが可能な関節運動である自動運動計測することがあります。
(弁護士中村友彦)