交通事故で亡くなった場合、国民年金、厚生年金等、被害者が保険料を支払っており、家族のための生活保障的な意味合いを持つものについては、交通事故による逸失利益として損害と認められることに現在は争いはありません(被害者が死亡した場合 年金の逸失利益)。年金とは、公的年金を思い浮かべる人が多いと思いますが、それにとどまらず、私的年金と言われるもの、年金型生命保険(個人年金保険)なども対象に入ります。
1 個人年金保険
個人年金保険は、公的年金を補充する目的で、個人が私的に加入するものです。保険の内容は様々ですが、一定期間(5年、10年)や終身で毎年一定額の支給がされます。この個人年金保険について、死亡事故に遭うことなく生きておれば、支給されたかもしれない年金保険金が交通事故の損害となるか争われることがあります。
交通事故の被害者が亡くなれば、保険契約の内容によれば支給が停止することがあり、加害者側からは、死亡により年金保険金の支給が停止するのは、当該内容の個人年金保険契約を締結したことに基づくものであるから、将来にわたって個人年金を取得できなくなったのは交通事故と相当因果関係がないと主張してくることがあります。しかし、裁判例ではこのような主張は認められておらず、保険契約の期間や、終身型の場合には平均余命までの期間について、年金保険金を交通事故の損害として認めている傾向にあると思います。
2 裁判例
(1) 東京地方裁判所平成28年8月19日判決(平成27年(ワ)23611号)
東京地方裁判所平成28年8月19日判決は、信号のある交差点を右折しようとした貨物自動車と自転車が衝突して起きた死亡事故の事案です。年金保証期間の定めのある個人年金保険の将来分について、交通事故の損害となるかが争われました。
上記東京地裁判決は、残りの年金保証期間の年金保険金について、交通事故の損害と認めました。そして、未受領の年金額に相当する損害額は、中間利息を控除して算定するのが相当であり、被害者及び原告らの生活状況を勘案して生活費控除率を35%として算定するのが相当であるとしています。
(2) 千葉地方裁判所平成23年7月25日判決(交通事故民事裁判例集44巻4号1003頁)
千葉地方裁判所平成23年7月25日判決は、信号のない交差点で右折しようとした自動車と自転車が衝突して生じた死亡事故の事案です。終身年金保険契約による将来の年金保険金が交通事故の損害となるか争われました。加害者側は、保険料と対価性のない年金保険は、交通事故と相当因果関係ある損害とは言えないと主張していました。
上記千葉地裁判決は、交通事故により死亡しなければ、事故の翌年である以降も、平均余命年数の9年間にわたり、当該年金保険金(年3%の割合で逓増するもの)を受領することができ、その額は192万2346円となるとして、年金保険金に係る逸失利益を認めています。なお、上記千葉地裁判決は、家事労働分や公的年金の逸失利益には生活費控除を50%していますが、上記終身年金保険の年金保険金については生活費控除をしていません。
(弁護士中村友彦)