交通事故の加害者が保険に未加入であり、損害賠償請求をしても加害者の資産や勤務先の情報がなく、回収に困るということが多々あります。判決を取得して弁護士法23条照会を利用して預金の調査を行ったり、興信所を利用するなどすれば、ある程度調査できますが、時間も費用もかかります。
民事執行法が改正され、令和2年4月1日から給与債権に関する情報取得手続きという新たな制度が始まります。交通事故で怪我をして人的損害の損害賠償請求権がある場合には、判決等の債務名義を取得すれば、加害者の勤務先の情報を取得できる可能性が高くなります。
1 給与債権に関する情報取得手続き
交通事故の被害者が、人的損害に関する損害賠償請求について、執行力のある債務名義を有している場合、所定の手続きを経ることで、裁判所が、市町村、日本年金機構、国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合、全国市町村職員共済組合連合会又は日本私立学校振興・共済事業団に対して、勤務先の情報を開示するように命じてくれます。
勤務先が分かれば、給与を差し押さえることができる可能性がありますし、給与を押さえるとそれまで真面目に対応してこなかった加害者が対応をしてくることもありえます。
2 現時点では物損では利用できない
加害者の勤務先を調べる給与債権に関する情報取得手続きは、現時点では養育費・婚姻費用といった扶養に関する債権と、人的損害の損害賠償請求権のみです。交通事故で多い車両の修理代等の物的損害の損害賠償請求では使用できません。
ですので、訴訟等を起こす場合には、人的損害も忘れずに請求すべきですし、和解の際には和解条項には気を付けるべきです。また、和解条項では、名目を解決金としたりすることが多いですが、これでは物損なのか人損なのか分かりませんので、上記給与債権に関する情報取得制度は利用できない可能性が高いです。
さらに、まだ具体的にどういう扱いになるかは制度が始まっていないので分かりませんが、和解条項で人的損害と物的損害を明確に分けていても、分割払いの場合には人的損害から充当され、途中で不払いとなり、いざ加害者の勤務先を調査しようとしても、既払分が人的損害が充当され、物的損害しか残っていないとされる可能性もあります。和解条項では、充当関係も指定しておくべきではないかと思います。
過去に判決のみ取得して回収ができないままという人もいると思います。事案によっては、今から勤務先を調べて回収を実現することできるかもしれません。給与債権に関する情報取得制度に期待しています。
(弁護士中村友彦)