通常の場合、交通事故では、車両同士が追突、歩行者を車両が轢く等の接触があるケースが典型的です。しかし、追突等の接触がなくても、被害者が驚いて転倒する等で傷害を負うなどをした場合に交通事故の損害とされないかが問題となります。被害者の自損事故と扱うことも考えられますが、事故の態様によっては自損事故とするのが不適当な場合もあり得ます。
最高裁昭和47年5月30日判決(判タ 278号145頁)では、車両の運行と歩行者の受傷との間に相当因果関係があるとされる場合は、車両が被害者に直接接触したり、または車両が衝突した物体等がさらに被害者に接触したりするときが普通であるが、これに限られるものではなく、このような接触がないときであっても、車両の運行が被害者の予測を裏切るような常軌を逸したものであって、歩行者がこれによって危難を避けるべき方法を見失い転倒して受傷するなど、衝突にも比すべき事態によって傷害が生じた場合には、その運行と歩行者の受傷との間に相当因果関係を認めるのが相当として、非接触でも交通事故の損害とされる場合があることを認めました。
そのうえで、上記最高裁判決は、被害者が夜の市道(幅員約3メートル、非舗装)を歩行中、前方からは加害者が運転する軽二輪車が、後方からは原動機付自転車が、それぞれ、接近して来るのを認めたため、原動機付自転車の方を振り返りながら、前方右側の道路端にある仮橋のたもとに避難したところ、前方から加害者運転の軽二輪車が運転を誤り、被害者がまさに避けようとしている仮橋上に向って突進して来て仮橋に乗り上げたうえ後退して停車したところ、被害者は仮橋の西北端付近で転倒し傷害を受けたと認定したうえで、被害者の予測に反し、右軽二輪車が突進して来たため、驚きのあまり危難を避けるべき方法を見失い、もし、現場の足場が悪かったとすれば、これも加わって、その場に転倒したとみる余地もないわけではないので、被害者の受傷は、加害者運転の軽二輪車の運行によって生じたものというべきであるとしました。(弁護士 中村友彦)