交通事故を起こした従業員が運転する車両が、当該従業員の所有するマイカーであった場合でも、会社への通勤での使用や会社の業務で使用しているような事情があれば、会社に使用者責任や運行供用者責任が認められることがあります。会社がマイカーの使用を認めているのであれば、実質的に社用車の場合と異ならないからです。会社が通勤や業務においてマイカーの使用を認めておらず、従業員が黙って使用し交通事故を起こした場合などには、会社の責任が否定される傾向があります。
1 会社に交通事故の責任はないとした例1(大阪地裁平成18年12月13日判決)
大阪地裁平成18年12月13日判決(交民39巻6号1703頁)では、従業員が起こした交通事故について、会社が、従業員を雇用する際、自家用車による通勤や業務用自動車を私用に用いることを厳禁する旨説明するとともに、電車等による通勤経路を申告させ、その経路の交通費に相当する通勤手当を支給していたことから、従業員が自家用車で通勤することがあったとしても、これを会社として容認、助長していたとまでは認められないとしました。そして、大阪地裁判決では、会社の他の従業員がその自家用車を会社に近接し、会社が日常的に利用している駐車場に駐車していたことからすると、会社は従業員が自家用車で通勤することにつき、厳重に禁じていなかったことが窺われ、会社が自家用車による通勤を黙認していた可能性は否定できないが、交通事故を起こした従業員に対し、自家用車による通勤を黙認していたことを認めるに足りる証拠はないと言わざるを得ないとして、使用者責任及び運行供用者責任を否定しました。
2 会社に交通事故の責任はないとした例2(大阪地裁平成2年2月2日判決)
大阪地裁平成2年2月2日判決(判タ717号177頁)では、会社は、自家用車を駐車させるスペースがないので自家用車による通勤は原則として認めない方針で、従業員の採用時にその説明もしていたが、一部の従業員は、自家用車で通勤し、自分の乗る営業車の駐車位置に駐車するなどして営業所構内に自車を置いており、会社の担当者もこのことを知っていたが、自家用車による通勤を控えるように指導したり、あるいは届けをさせることもなく、事実上黙認していたとしたうえで、会社は、従業員の自家用車による通勤を事実上黙認していたに過ぎず、業務に使用したり、自家用車による通勤を指示、奨励したこともなく、交通事故を起こした従業員は自己の個人的な便宜のため通勤に自家用車を使用したものであると認められるとしました。そして、上記大阪地裁判決は、従業員が飲酒していたこと、勤務明けから7時間後におきた交通事故であるなど交通事故に至る経緯も考慮して、会社の責任を否定しました。
(弁護士 中村友彦)