交通事故で傷害を負い、整骨院での施術を行った場合、その費用は、自賠責保険では、「免許を有する柔道整復師、あんま・マッサージ・指圧師、はり師、きゅう師が行う施術費用は、必要かつ妥当な実費とする。」と定めています。そして、損害賠償の算定において、施術の必要性、合理性、金額の相当性が認められる範囲については、交通事故の損害として認められます。基本的に医師による指示がある場合は、必要性が肯定されます。
1 整骨院での施術費を交通事故の損害と認めた例
医師の指示を受けたわけではありませんが、整骨院の施術費を交通事故による損害として認めた例として、東京地裁平成16年2月27日判決(交民37巻1号239頁)があります。この事例は、頸椎捻挫、右膝外側側副靭帯損傷等の傷害の事案で、①施術で、残存していた疼痛が軽快・快方に向かいつつあることが窺えること、②整形外科における治療回数が施術を受けることにより減少しており、施術が治療の代替機能を果たしている面があること、③施術費は、健康保険や労災保険における柔道整復師施術料金算定基準と比較したとき、社会一般の水準と比較して妥当と判断できる金額であること、④被告らが、整骨院における施術を認めていたという経緯があること等を考慮して、症状固定日までの施術費を交通事故に基づく損害として認めました。
2 整骨院での施術費が一定の要件を満たす必要がある理由
上記東京地裁判決では、交通事故の被害者が、加害者に対し、東洋医学に基づく施術費を交通事故に基づく損害として請求できるためには、原則として、施術を受けるにつき医師の指示を受けることが必要であり、さらに、医師の指示の有無を問わず、施術の必要性・有効性、施術内容の合理性、施術期間の相当性及び施術費用の相当性の各要件を満たすことが必要であるとしました。その理由として、患者の受傷の内容と程度に関し医学的見地から行う総合的判断は医師しかできないこと、施術には整形外科の治療法と比較したときに限界があること、施術の手段・方式や成績判定基準が明確ではないため施術の客観的な治療効果の判定が困難であること、施術者によって技術が異なり、施術の方法、程度も多様であること、施術費算定についても診療報酬算定基準のような明確な基準がないという事情を考慮すると、施術費を、上記要件を満たさない場合においても、医師による治療費と同様に加害者の負担すべき損害とするのは相当ではないからとしています。
3 整骨院での施術費を一部制限した事例
大阪高判平成22年4月27日(自保ジャーナル1825号1頁)では、交通事故による損害として認める整骨院での施術日数を制限し、その費用の額も労災保険の1.2倍が相当としました。(弁護士中村友彦)