交通事故で有給休暇が問題となるのは、通常、交通事故で負った傷害の治療のために通院する際に、有給休暇を使用したような場合に表面上は収入の減少がないので、それを損害としてどのように扱うかということです。この点については、休業損害として扱ったり、慰謝料評価してとして扱ったりする等があります。
しかし、有給休暇に関する問題は、それだけにとどまらず、交通事故で休業したために、翌年の有給休暇がカットされたような場合にそれを損害として評価できるのかが問題となります。
1 神戸地裁昭和63年5月27日判決(交民21巻3号539頁)
神戸地裁昭和63年5月27日判決は、交通事故により左肩鎖関節脱臼、左膝部挫創の傷害を受け、左肩関節の可動域が制限され、後遺障害12級が残存した事案です。上記神戸地裁判決は、交通事故の被害者は188日間休業を余儀なくされたことから、翌年の有給休暇20日分(27万4000円相当)がカットされたことを認め、請求額26万6660円はその範囲内として認めました。
2 東京地裁平成13年12月26日判決(交民34巻6号1680頁)
東京地裁平成13年12月26日判決は、頸椎捻挫、右肩打撲等の傷害を負い、休業期間153日が認められた事案です。そして、上記東京地裁判決は、「原告は、本件事故による欠勤によって平成一三年度の有休休暇を付与されなかったことが認められる(甲26)。しかし、治療時間を確保する目的で、かつ、欠勤を免れるために有給休暇を現実に費消したのではない以上、損害として考慮するのは相当ではなく、同年度において自由に休暇を取得することができなくなったという観点から慰謝料の考慮事情とする。」と述べ、慰謝料として交通事故の損害と評価するとしました。(弁護士中村友彦)