交通事故などのために、被害者が傷害等を負い、治療費、慰謝料などの損害賠償金を受け取ったときは、これらの損害賠償金に関する所得税は通常非課税となります。被害者は、加害者の起こした交通事故により、身体的、精神的、物的な損害を受けましたが、慰謝料等の賠償を受け取ることによって、交通事故による損害を受ける前の状態に戻ったと考えられています。したがって、賠償金を受け取ることによって以前の状態に戻っただけであり、積極的な利益を得ているわけではありませんので、交通事故に関する賠償金についての所得税を非課税としています。
交通事故に関する賠償金が非課税となることについて、具体的には
1 心身に加えられた損害について支払を受ける慰謝料など
交通事故による負傷について受ける治療費、慰謝料や、負傷して働けないことによる収益の補償をする休業補償などです。
2 交通事故により資産に加えられた損害について受ける損害賠償金など
事故による車両の破損について受ける損害賠償金などです。
3 心身又は資産に加えられた損害につき支払を受ける相当の見舞金
社会通念上それにふさわしい金額のものに限られます。
これらの場合は課税されませんので、通常の交通事故の損害賠償で受け取った賠償金について税金の心配をする必要はないでしょう。
但し、損害を受けた資産が事業用の資産の場合や見舞金が社会通念上相当な範囲を超えている場合は別になります。
例えば、
① 商品の配送中の事故で使いものにならなくなった商品について損害賠償金などを受け取った場合、棚卸資産の損害に対する損害賠償金などは、収入金額に代わる性質を持つものであり、非課税とはならず、事業所得の収入金額となってしまいます。
② 車両が店舗に飛び込んで損害を受け、その店舗の補修期間中に仮店舗を賃借するときの賃借料の補償として損害賠償金などを受け取った場合、この損害賠償金などは、必要経費に算入される金額を補てんするためのものであり、非課税とはならず、事業所得の収入金額となってしまいます。
③ 見舞金でも、社会通念上相当な範囲を超え、収入金額に代わる性質を持つものや役務の対価となる性質を持つものは、非課税所得から除かれます。
なお、交通事故の被害者が事故により死亡してしまったため、被害者の遺族が損害賠償金を受け取った時も、所得税は非課税になります。(弁護士中村友彦)