未成年の子が、交通事故を起こした場合、その年齢によっては、責任能力がないとして損害賠償責任を免れます(民712条)。交通事故を起こした未成年に責任能力がない場合は、親権者等の監督責任としての損害賠償義務が問題となりますから、責任能力の有無が争われることがあります。
1 責任能力がない場合に損害賠償義務を免れる理由
自己の行為の法的結果を認識しえない者に法的責任を課すのは酷だという考え方があります。しかし、それでは、被害者が救済されないので、民法714条は、責任能力がない者を監督する義務がある者に対して責任追及をすることでバランスを図っているのです。
2 責任能力を否定した事例
岡山地裁笠岡支部昭和59年9月5日判決(交民17巻5号1234頁)は、直線道路を左折しようとした被害者運転の自転車に、後方の下り道からブレーキをかけることなく直進してきた未成年者運転の自転車が衝突し、被害者が死亡したため、被害者の妻子が、当該交通事故を起こした未成年及びその両親に対し損害賠償を求めた事案です。上記岡山地裁笠岡支部判決は、当該交通事故を起こした未成年が、交通事故当時12歳11ヶ月余の少年であって、責任能力を否定し、その両親に監督責任を認めました。
3 責任能力を肯定した事例
東京地裁昭和63年1月29日(交通民集21巻1号144頁)は、自転車で時速20キロメートル弱の速度で進行し、一時停止その他の安全確認を行うことなく本件横断歩道に乗り入れた加害者である交通事故当時14歳の未成年が、歩行者と衝突し、歩行者が受傷したことから、加害者の両親に対し、損害賠償を求めた事案です。上記東京地裁は、加害者である未成年は事理弁識能力に欠けるところはなかったとして、その両親に監督責任を認めませんでした。(弁護士中村友彦)