業務中や通勤途中などに交通事故にあった場合、被害者は労災給付を受けることができますし、自賠責保険からも支払いを受けることができます。法律上どちらを先に利用すべきかは決まっておらず、交通事故の被害者の選択に委ねられます。
1 労災保険給付と自賠責保険の給付
法律上、どちらを優先して使用すべきという決まりはありませんが、二重取りできるわけではありません。原則として、自賠責保険から先に交通事故の損害に対する給付が行なわれた場合は、その分の労災保険給付が控除(不支給となること)され、労災保険給付が先に支給された場合は、その分の交通事故の損害賠償請求権が政府に移転する為、自賠責保険などに対して交通事故の損害を請求することができなくなります。
2 交通事故の給付内容の違い
(1) 自賠責保険の場合
慰謝料、治療費、交通費、入院中の諸雑費、文書料、休業損害等が支給されます。
(2) 労災の場合
療養補償給付・療養給付、休業補償給付・休業給付、傷病補償年金・傷病年金、障害補償給付・障害給付、遺族補償年金・遺族年金、葬祭料・葬祭給付、介護補償給付・介護給付、二次健康診断等の給付があります。慰謝料や入院中の諸雑費についての給付はなく、休業補償についても、平均賃金の6割と休業特別支給金としての労働福祉事業からの2割分になります。
3 交通事故で労災給付を使用するメリット
①受診者には窓口負担がなく、健康保険の場合と同様に治療費を抑え,自賠責保険の枠を有効に利用することができます。
②労働福祉事業として休業特別支給金、障害特別支給金、障害特別年金、遺族特別年金等が予定されているが、損益相殺の対象にならないため、これらの給付を受けても、自賠責保険への請求といった交通事故の損害賠償請求権が縮減することはありません。(弁護士中村友彦)