責任能力がある未成年が交通事故を起こした場合、民法714条の責任を親権者である親等に対して追及していくことはできません。しかし、未成年は、通常、資力がないですから、損害賠償責任を負うとしても、金銭を被害者に支払えず、被害者は救済されないことになってしまいます。そこで、要件のハードルは高いですが、一定の場合、民法709条で責任を追及していくことができます。
1 民法709条責任が肯定されたケース(東京地裁昭和52年3月24日判決判時 868号57頁)
東京地裁昭和52年3月24日判決は、未成年者が車を窃取して乗り回していたところ交通事故を起こした事案です。上記東京地裁判決では、①過去に原動機付自転車の窃盗で補導された際、東京家庭裁判所に呼び出され、監督につき注意を受け、未成年者が16歳のとき、原動機付自転車の免許を取り、その後交通法規違反で免許停止一か月の行政処分を受けたことあったこと、②その後も動車を買ってほしいとの希望(大学1年生)を押えることができず、普通自動車運転免許取得のため自動車教習所に通わせたうえ、本免許も取得していなかったが執拗な要求を入れ自動車を買い与えたこと、③まだ普通自動車の運転免許を取得していなかつたのであるから、車を使用できないようにその車の鍵を厳重に保管する等の措置を講ずべきであつたにかかわらず、単に免許を取るまで右車を運転してはいけない旨申しきかせただけで、無断で右車を運転していたことを知りながら格別の注意もせず、また、鍵の保管についても従来のまま仏壇に保管し、特別の措置もとらなかったこと、④未成年者が車を持ち出し、その友達が運転中事故を惹き起こすに至ったが、その折にも厳重な注意を与えることなく、車を修理のため販売会社に預け、引き続いて免許取得のために自動車教習所に通わせていたこと等を考慮して、事実上の監督義務者である叔父に民法709条の責任を認めました。
2 民法709条の責任を否定したケース(東京高裁昭和57年7月21日判決判タ482号146頁)
東京高裁昭和57年7月21日判決は、高校生が自動二輪車を通学に利用していて通学の途上交通事故を起した事案です。上記東京高裁判決は、①監督義務者が自動二輪車を買うことを許可していなかったが、交通事故を起こした高校生が無断で、新聞配達のアルバイトをして得た金で購入したこと、②自動二輪車が自宅に届けられて初めてこの事実を知り、返品するよう命じたが高校生はこれに従わなかったので、仕方がないと考えてそれ以上の指示、監督をしなかったこと、③その後の監督は、制限速度を守り、事故を起こさないようにと注意をする程度であったこと、④高校では自動二輪車による通学が禁止されていたが、途中の東急東横線綱島駅まで自動二輪車で通い、電車に乗り換えて通学していたこと、⑤通学方法について監督義務者は積極的に止めようとはしなったこと、⑥交通事故は、通学途上に起こしたものであること、⑦高校生は、運転免許取得後他に事故を起こしたことはなく、違反歴は進入禁止場所に進入した違反により反則金を支払ったことが一回あること、その他に非行歴はなかったこと等を認定したうえで、各事実をもってしては、監督義務違反があり、そのために交通事故が惹起されたとの事実を認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はないとして、実親の民法709条の責任を否定しました。(弁護士中村友彦)