交通事故によって傷害を負い、それが頚椎等の神経が損傷されることはよくあります。神経が損傷されると、身体全部が動かなくなったり、片足のみ動かなくなるなどの麻痺状態になることが多いです。この麻痺というのは、部位やその性質により様々に分類されます。
1 麻痺
麻痺とは、脳の運動中枢から骨格筋までの運動神経のどこかが障害を起こし、体を動かすといった運動が困難か不可能になっている状態のことです。
2 麻痺の起こる部位による分類
(1)単麻痺
一肢のみが麻痺の状態になることです。例えば、右足だけが動かないと いったことです。大脳皮質運動野か脊髄全角細胞といった下位運動ニューロンの障害で起こります。
(2)片麻痺
身体の半身、片方の上下肢が麻痺の状態になることです。例えば、右手・右足が動かないといったことです。大脳から脊髄までの間で起こる障害で生じます。
(3)対麻痺
両下肢が麻痺することなどです。例えば、左足・右肢が両方動かないといったものです。胸髄以下の神経の障害で見られ、交通事故で腰髄が損傷されるといったことで生じることがあります。
(4)四肢麻痺
両側の上下肢が麻痺の状態になることです。例えば、両手・両足が動かないといったことです。交通事故で頚髄が損傷されて起こることがあります。
上記以外でも、左手・右足が動かない(上肢と下肢で対称)といったものもありますが、概ね上記のように分類されます。
3 程度による分類
麻痺は、神経の損傷の状態などで、程度が違い、大まかに分けると2つに分類されます。
(1) 完全麻痺
特定の末梢神経に支配されるすべての運動が麻痺し、その末梢神経に支配される筋が完全な脱力をきたし動かない状態です。
(2) 不全麻痺
特定の末梢神経に支配される運動のうち一部が麻痺し、その抹消神経に支配される筋の不完全な脱力をきたし、動かすのが困難である状態です。
4 性質による分類
麻痺の種類は、その性質により2つに分けることができます。
(1)徑性麻痺
筋が硬直し、硬くなっている状態です。上位運動ニューロンが障害されたときに見られます。深部健反射の亢進や、病的反射が出現することがあります。
(2)弛緩性麻痺
筋が弛緩している状態です。下位運動ニューロン障害などで生じますが、上位運動ニューロンが障害されても、発症直後は弛緩性麻痺が生じます。
深部健反射が弱くなったり、消失したりすることがあります。
上位運動ニューロンに障害が生じた場合、まず弛緩性麻痺が生じた後、徑性麻痺が徐々に出現し、移行することがあるので、交通事故の直後に弛緩性麻痺が生じているかといって、下位運動ニューロンに障害が生じているとは限りません。
5 障害されたニューロンによる分類
障害されたニューロンによっても、2つに分けることができます。
(1)前提としてのニューロン
まず、前提としてニューロンは上位運動ニューロンと下位運動ニューロンに分類することができます。
①上位運動ニューロン
大脳皮質から脊髄にいたるニューロンのことです。錐体路ニューロンとも言います。
②下位運動ニューロン
脊髄前角細胞から筋肉にいたるまでのニューロンのことです。α運動ニューロンともいいます。
(2)中枢性麻痺
上位運動ニューロン(錐体路障害)によるものです。多くの場合、まず弛緩性麻痺になり、しだいに徑性麻痺に移行していきます。麻痺が持続すれば、骨格筋に廃用性萎縮が生じることがあります。
(3)末梢性麻痺
下位運動ニューロンの細胞体又は神経線維の障害によるものです。弛緩性麻痺になります。麻痺が続くと、末梢神経の支配領域に一致した筋萎縮が生じることがあります。
麻痺の種類・分類は、上記述べたように様々ですが、交通事故で後遺障害が残存し身体が動かなくなるといった場合に、その原因を特定するために麻痺の区別は重要です。(弁護士中村友彦)