自動車を運転できるのであれば、通常、責任能力が認められますし、運転免許が取得できる年齢であれば、責任能力がないとされることはまずありません。しかし、責任能力がない幼少の未成年であっても、自動車で交通事故を起こすことはあります。例えば、幼少の未成年が駐車中の車を悪戯で勝手に動かしたり、サイドブレーキを外したことで自動車が動き出したために交通事故を起きるようなケースです。
ただ、比較的可能性が高いのは、駐車中に幼少の未成年がいきなり車両の扉を開けて歩行者等に接触させて交通事故を起こす場合です。
1 東京地裁昭和63年9月30日判決(交民21巻5号993頁)
東京地裁昭和63年9月30日判決は、時速約10キロメートルの速度で加害車両の側方を原付自転車で通過した際、折悪しく子供(五歳)が開けた同車の後部ドアに左側ハンドルが接触し、走行の安定を失って4、5メートル先に原付自転車もろとも転倒した事案です。親権者である両親と車の所有者である会社の責任が問題になりました。上記東京地裁判決は、交通事故の被害者が、交通事故により頭部等に傷害を受け、知能障害、性格障害、てんかんの疑いのほか左不全麻痺、視野狭窄、けいれんなどの神経障害等の後遺障害が残存したか争われましたが、交通事故の態様・程度、受傷の内容・程度ないし事故直後からの被害者の病状の経過、事故後のCTスキャンや脳波検査の結果に脳損傷をうかがわせるような特段の異常所見は得られていないこと等から、後遺障害の残存を否定し、既に損害の填補を受けているとして原告の請求を棄却しました。 (弁護士中村友彦)