交通事故は、交差点に進入する際に自動車同士が衝突したり、歩行者が横断歩道を渡ろうとしたところ、信号を見落とした自動車に撥ねられるといった道路上でのものが多いです。しかし、交通事故というのはそれらの態様に限られず、駐車場において発生するものなどがあり、駐車場における交通事故の過失割合については定型的な基準がありませんので、争われることが少なくありません。
1 過失割合の重要な一要素となる道路交通法
交通事故における当事者の過失割合の基準となる要素は様々なものがありますが、その重要なものとして、道路交通法の適用の有無があります。道路交通法には、道路上での自転車、自動二輪車や自動車などの運転に必要な義務を定めています。道路交通法が適用されるのには、交通事故が「道路」で生じたことが必要となります。
(1)道路交通法上の『道路』
「道路」とは、道路交通法2条1項1号によれば、道路法2条1項に規定する道路、道路運送法2条8項に規定する自動車道及び一般交通の用に供するその他の場所のことをいいます。これに当たるかどうかは、駐車場の場所や状況等によることになりますが、刑事事件の裁判例の判断は区々です。ただ、刑事事件における道路交通法の解釈と交通事故における過失割合の前提としての道路交通法の解釈が一致するとは限りません。刑事事件は、刑罰を科すものですから、謙抑的に解釈され事故現場が「道路」ではないとされたとしても、民事事件では、道路交通法上の「道路」であることを前提に解釈されることはありえると思われます。
(2)大阪高裁平成14年10月23日判決(判タ1121号261頁)
刑事事件ですが、お店の駐車場が道路交通法上の「道路」に当たるかとして争われ、道路交通法2条1項1号にある「一般交通の用に供するその他の場所」の解釈から駐車場の一部が「道路」に該当すると判断しました(駐車場の他の部分については判断していません)。その判示は、以下の通りです。
(判示)
「一般交通の用に供するその他の場所とは、不特定多数の人や車両が自由に通行できる場所として供され、現に不特定多数の人や車両が自由に通行している場所を意味すると解されるところ、本件各店舗を訪れ、自車を本件駐車場に停め、又は停めようとする者及びその自動車は、だれでも本件駐車場中央部分を通行することができ、現に通行していたのであるから、同所は不特定多数の人や車両が自由に通行する場所として供され、現に不特定多数の人や車両が自由に通行していたものというべきである。したがって、同所は道路に当たると解するべきである。」
(3)道路交通法上の「道路」にあたらない場合
仮に道路交通法上の「道路」に当たらないと判断されたとしても、駐車場を自動車等が通行する以上、互いに道路交通法に定めた通行方法等にならうでしょうし、駐車場が実質的・機能的に「道路」というべき場合もあると思います。道路交通法の適用がなかったとしても、その趣旨は無視できず、過失割合において考慮されることは多いでしょう。
しかし、道路における交通事故とは全く同じとはならず、駐車場の場所や状況から修正されることにはなると思われます。(弁護士中村友彦)