交通事故で重大な結果が発生し、加害者が一定の罪名で刑事裁判にかけられた場合に、被害者が利用することの手続きとして損害賠償命令制度があります。被害者参加制度とともに導入された制度ですが、あくまで民事上損害賠償手続きの位置付けですから、被害者参加弁護士が当然に損害賠償命令制度における被害者の代理人になるわけではありませんので注意が必要です。また、刑事裁判の弁護人が、損害賠償命令制度での加害者の代理人になるわけでもありません。
1 損害賠償命令制度
犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律(犯罪被害者保護法)に定められています。刑事裁判の成果を利用して、刑事訴訟記録を民事事件における証拠とすることで簡易迅速に民事上の損害賠償の紛争を解決します。
(1)交通事故の場合の対象事件
①危険運転致死傷罪
②故意の犯罪行為により人を死傷させた罪(未遂を含む・殺人罪など)
(2)手続きの流れ
①損害賠償命令の申立
起訴後、刑事裁判の公判における被告人の最後の意見陳述による弁論が集結するまでに、刑事被告事件の継続する裁判所に提出して行われ ます。申立の手数料は2000円とされています。
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②申立の審理
口頭弁論によらず当事者を審尋することができる任意的口頭弁論によります。刑事裁判で有罪の判決の言い渡しがあれば、裁判所は直ちに審理期日を設定し、原則として4期日以内で終了します。また、職権で裁判所は刑事記録を取り調べる義務があります。
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③裁判もしくは職権による民事訴訟への移行(当事者が申し立てることもできます)
裁判は決定によりなされ、異議がなければ通常の確定判決と同一の効力を持つことになります。審理に時間を要すると裁判所が判断した場合は、職権で通常の民事訴訟手続きに移行させることもあります(当事者が申し立てることもできます)。
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④異議による民事訴訟手続きへの意向(不服申立)
裁判の結果に異議があれば、裁判の告知から2週間以内に異議の申立があれば、訴えの提起があったとみなされて通常の民事訴訟へ移行します。
2 損害賠償命令制度のメリット
損害賠償命令制度は、当事者の納得ができなければ通常の民事訴訟を利用することになりますが、メリットとしては以下のようなものがあります。
① 簡易迅速(民事訴訟と異なり刑事記録を改めて取り寄せなくてもよい)
② 民事訴訟と異なって請求額によって印紙代は変わらない
損害賠償命令制度は、被害者参加制度と並び交通事故の被害者にとって有用な制度ですが、まだまだ利用者は少なく、被害者が十分に利用できるようにさらなる制度の拡充が望まれるところです。(弁護士中村友彦)