交通事故で損傷を受けた車両を買い替えたり、修理する場合には、一定時間当該車両が使えなくなります。損傷を受けた車両が、緑ナンバーの営業車(タクシーや営業用貨物トラック等)の場合、その車両が使えなくなったことで生じた営業利益の損失のことを休車損害といいます。休車損害が問題となるケースでは、損害の計算方法といった論点がありますが、他に営業車として使用できる車両(遊休車・予備車)が存在した場合に、そもそも休車損害が発生するのかが争いになることがあります。
1 遊休車
交通事故の被害者が、保有している他の車両の稼働率、業務内容、保有台数と運転者の数、仕事の受注体制等を考慮して、余って「遊んでいるような状態」だと言える車両を遊休車といいます。遊休車がある場合、それだけで休車損害が認められないというわけではないですが、原則として休車損害は認められない傾向にあります。
2 遊休車の不存在の立証責任
遊休車が不存在であることを立証するのは、交通事故の被害者側です。休車損害は、他の損害(後遺障害逸失利益等)と同じですから、被った損害を請求する側が、自らの権利を実現するために立証する必要があります。その立証は、煩雑で紛争になるケースが少なくありません。
3 遊休車に関する裁判例
(1) 神戸地裁平成15年1月22日判決(交民36巻1号85頁)
神戸地裁平成15年1月22日判決は、交通事故の被害者がタクシー会社で、修理のため休車しましたが、他の車両の運行によってその稼働を補うことが可能であったかで、休車損害の発生が争われました。上記神戸地裁は、「本件事故当時,35台の車両を保有していたところ,1か月ごとに乗務員約78名の乗務予定を稼働可能な全車両にあらかじめ割り当てており,車両の点検整備・修理や乗務予定の者の欠勤のため稼働させることができない車両を除くすべての車両を常時稼働させていることが認められ,この事実によれば,控訴人が休車とされた控訴人車両の稼働を他の車両の運行によって補うことができたとはいえない。」として、休車損害の発生を認めました。
(2) 東京地裁平成15年9月8日判決(交民36巻5号1244頁)
東京地裁平成15年9月8日判決は、タンクローリー車とクレーン車が衝突した交通事故です。それぞれ休車損害が発生するかが争われました。上記東京地裁は、車両が損傷したことによる休車損害が認められるためには、〈1〉損傷した車両を使用する必要性があること及び〈2〉損傷した車両と同種の車両を容易に使用することができないことが必要であると解されるところ、〈1〉については、特段の事情が認められない限りは、肯定されることになると述べたうえで、タンクローリー車とクレーン車をともに休車損害を認めています。
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(弁護士中村友彦)