交通事故で、車両が損傷を受けた場合に発生する損害は、修理費やレンタカー代などが中心ですが、事故によって破損を受けた車両によっては、特殊な損害が発生することがあります。そのような特殊な損害の一つに、交通事故にあった車両が営業車であった場合に発生する休車損害というものがあります。
1 休車損害
休車損害とは、交通事故によって損傷を受けた車両を修理したり、買い替えたりする間にその車両が使えなかったことで、本来であれば得られたはずにもかかわらず得られなかった営業利益の損失をいいます。どのような車両でも認められるわけではなく、営業用の車両であることが必要で、一般的に許認可の関係で代車を使うことができないタクシー、バスや営業用貨物トラックといった緑ナンバーの車で問題になります。
2 通常の損害と言えるか
休車損害が、一般的に交通事故によって通常生じうる損害と言えることについては、特に争いはないのですが、最高裁の判決でこの点に触れたものがあります。
(1) 最高裁昭和33年7月17日判決(民集12巻12号1751頁)
最高裁昭和33年7月17日判決は、営業用貨物の休車損害が問題となった事案で、原審の名古屋高裁は、特別な事情によって生じた損害として認めませんでした。しかし、最高裁は、特別な事情がない限り、少なくともその一部に、通常生ずべき損害を包含しているものと解するのが相当と判断しました。
3 休車損害の算定方法
算定の方法については、一般的に使用されるのは、交通事故にあった車両の1日あたりの営業収入から支出を免れた経費を控除し、休車期間の日数を乗じて算定する方法です。控除される経費について、固定経費は該当しないと考えられていますが、控除する経費の中身について争いがあります。
(1) 1日あたりの営業収入
1日あたりの営業収入は、交通事故にあう前の3ヶ月間や1年間の売上から計算されるのが通常です。
(2) 休車期間
レンタカーを借りる場合の代車使用期間がどれぐらいかということとパラレルに考えてよいと思います。ただ、車両の修理にあたって特殊な塗装をしないといけないとか、営業許可を受けるために必要な期間などの考慮要素があります。
(3) 他の算定方法
裁判例では、休車損害の算定にあたって、個別の事案に応じて算定しているものがあります。
① 東京地裁平成10年2月24日判決(交民31巻1号250頁)
東京地裁平成10年2月24日判決は、産業廃棄物の運搬車両が交通事故の被害車両の事案です。産業廃棄物の運搬車両は、法律上都道府県知事の許可なしには走行できず、他から代替車両を調達して使用することはできませんから、外注を増やさなければならなくなりました。上記東京地裁判決は、仕事を外注した費用から変動経費を控除した額が、被害車両の所有者の1日当たりの休車損害と認めました。
② 神戸地裁平成10年5月21日判決(交民31巻3号717頁)
神戸地裁平成10年5月21日判決は、残土運搬車の休車損害ついて争われました。上記神戸地裁判決は、1日に4万4100円の収入を計上していたことは認められるが、経費率について原告の主張の20%、被告の主張の50%のいずれであるかを認める根拠はないとし、民事訴訟法248条に基づき相当額を認定するとして、休車損害を1日2万5000円としました。
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(弁護士中村友彦)