交通事故で争点になるのは、後遺障害の存在・程度、慰謝料額等の多岐にわたりますが、その中の一つに事故態様の争いがあります。事故態様は、交通事故の被害者に過失があるかや、過失割合などに関わりますので、被害者が加害者(保険会社)に請求する損害賠償額に大きな影響を及ぼします。加害者(保険会社)も、刑事責任や損害賠償額に関わるので、完全に明らかな場合を除いて(但し、例外的に意味もなく争ってくることがありますが)、事故態様は大きな争点になります。
1 事故態様についての資料
(1)刑事記録
訴訟になった場合に、裁判所が重視するものです。交通事故の現場の状況や、事故態様を把握するためにも、事故態様や過失割合に争いがあれば、刑事記録を入手しなければなりません。
①不起訴事件
不起訴事件については、原則、実況見分調書のみを取得できます(実況見分時に信号の色の争いがある場合等には、信号のサイクル表なども付いてくることがあります。)。詳しくは、刑事事件記録取得(不起訴事件)へ。
②起訴事件
犯罪被害者保護法3条に基づいて取得する場合を除いて、略式命令や判決が確定するまで取得することができません。取得することができる刑事記録は不起訴事件と異なって実況見分調書に限られず、供述調書等も含まれます。
(2)当事者作成の事故発生状況報告書
交通事故にあった後、被害者や加害者が、自分の加入する保険会社などに対して交通事故について報告する書面などです。事故直後の当事者の認識が記載されており、事案によっては証拠として意味があります。当事務所が扱った案件でも、訴訟の中で被害者が信号無視して交通事故が生じたという主張をしていましたが、事故直後に加害者が自分の加入している保険会社に対して、自分がよそ見をしていて信号を無視して交通事故を起こした旨の報告書を提出していたことがありました。
(3)現場写真
実況見分調書に添付された現場見取図だけでは、分からない情報もありますので、現場の状況についての写真が事故態様について意味を持ってくることもあります。基本的に、当事務所は、訴訟となる見通しがあるような事件では、現場に行くことにしています。
以前、事故直後から治療費を支払わないという保険会社に依頼された損リサーチ会社の調査員が交通事故の被害者のところに来たときに、当事務所の所属弁護士も同席した際、被害者がカーブミラーを見ていなかったことを糾弾してきました。しかし、後日、現場を見に行ったところ、事故現場の状況から、そのカーブミラーは被害者にとって意味がないものであったということがありました。
2 過失割合
(1)過失相殺
交通事故で被害者にも落度が会った場合、事故の責任をすべて加害者に負担させるのは不公平です。そこで、被害者の過失分について、損害賠償額から差し引くという運用がなされており、これを過失相殺といいます。
例えば、被害者に過失が1割あるのであれば、被害者に生じた損害1000万円から1割を差し引いて、900万円を加害者に請求できるということです。当然、損害賠償額に影響するのですから、加害者・被害者ともに自己に有利な主張をし争いになることがあります。
(2)過失の基準
交通事故は毎日たくさん起こっており、過失についての判断がばらつくことからくる不公平を避けることや、事件数の増加に伴う早期解決の要請等といった理由から、一定程度の基準化が試みられています。実務上定着して使用されているのは、東京地裁民事交通訴訟研究会編「民事交通事故訴訟における過失相殺率の認定基準」全訂4版(別冊判例タイムズ16号)です。
ただ、上記の基準は、あくまでも基準です。個別具体的な事情によって事故態様は変わりますし、自転車同士の交通事故の基準などは規定されていません。訴訟においては、事故態様を基礎づける資料や裁判例等を示して、過失の割合について主張しなければなりません。
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(弁護士中村友彦)